アンファーが連携している日本医科大学形成外科学教室アンファー抗加齢予防医学講座(高田弘弥 社会連携講座教授)は、6月に開催された第8回日本がんサポーティブケア学会学術集会(奈良県コンベンションセンター)会長推薦講演にて、『超音波を用いた新しい発毛治療』の最新の研究成果を発表し、最優秀演題賞を受賞しました。
▼発表参加にあたって
がんは痛みなどの症状が出る前に発見・治療をすることができれば、治る可能性が高くなります。がんの手術は局所的には有効な治療ですが、転移を予防したいときなど広い範囲に治療を行う必要のあるときに化学療法(抗がん剤治療)が行われます。ところが、抗がん剤治療の副作用として、細胞分裂が活発な毛根の細胞が障害を受けて高い確率で脱毛が起こります。髪の毛だけでなく眉毛やまつ毛など全身の体毛が抜けることもあります。とくに乳がんの抗がん剤治療で多く見られる副作用の一つで、女性にとっては見た目の変化の精神的ショックばかりか、急な脱毛からがんであることを悟られる不安や哀れみの目で見られる孤独を感じるつらい症状の代表です。
がん闘病中の患者さんやご家族が抱える心の痛みも一緒にサポートケアできないか、私たちの未来への想いを約束するために演題登録をしました。抗がん剤による脱毛と闘う方のために、安全に安心して使用できる『超音波を用いた新しい発毛治療』※1のご提案と研究成果をご報告しました。
※1 本発表は、会長推薦講演として選出された演題の一つです。
▼研究の背景
経口薬ミノキシジルは、1979年にアメリカ食品医薬品局(FDA)で承認された血管拡張剤(降圧薬)ですが、その副作用として生じた多毛症が予期せぬ効能となり、1988年FDAによって発毛外用剤としても承認されました。日本では1999年から、薬局やドラッグストアで購入できる一般用医薬品として、ミノキシジル外用薬が市販されています。1988年に誕生して30年を超えて広く使用される発毛剤でありながら、その発毛メカニズムの詳細は未だに明らかになっていません。当講座はミノキシジルが発毛を促す上流メカニズムの解明を試みる中、ミノキシジルに代わって物理的刺激が同様に発毛周期および発毛遺伝子の発現に影響を及ぼすことを見出しました※2。
※2引用として)H. Takada, Y. Osada, M. Nakajima, A. Sakai, T. Hoshi, T. Hama, T. Koyama, H. Suzuki, and R. Ogawa: Does noncontact phased-array ultrasound promote hair regrowth?, Journal of Dermatological Science, 108, 51–54 (2022).
▼発表内容
開発した非接触超音波装置は、局所的な周期的圧刺激を生じ、発毛を促進します。剃毛したマウス右側頭側部に5%ミノキシジル外用薬または周期的圧刺激(10Hz、20分以上/日、3日間連続あるいは週1回3週連続)を行うと、刺激した背部右側のみ発毛が促進されました。次に、これらの局所刺激が血管へ与える影響について調べました。血管造影剤を静脈注射した後、剃毛したマウスの背中に、5%ミノキシジル外用薬または周期的圧刺激(10Hz、20分)を与え、最新のリアルタイムイメージング技術を用いて血管を可視化して観察しました。その結果、いずれの刺激も刺激部位で局所的な血管拡張を起こしており、これが毛髪の成長促進に寄与することが推察されました。KATPチャネル(特にKir6.1/SUR2Bサブユニット構成)の強力な阻害剤であるU-37883Aは、圧刺激による毛髪成長の遅延を示し、局所血管拡張を抑制することを示しました。圧刺激による血管内皮細胞のKir6.1/SUR2Bサブユニットの活性化は、脱毛症に対する効果的な治療法となる可能性があります。
さらに、健常者を対象に圧刺激(週に1回20分照射を16週間)による毛髪変化を評価したところ、照射側は非照射側と比較して、成長期毛割合が10.2%高く、休止期毛割合が32.1%低く、明らかに毛髪の成長が促進され、基礎研究に留まらず臨床研究においても良好な結果が得られました。非接触超音波装置は、局所で毛髪の成長を促す特性があることから、抗がん剤による脱毛に対して適用が期待できる新しい治療機器です。
▼今後の研究の展望
ミノキシジルおよび物理的刺激による発毛メカニズムのさらなる解明はもちろんのこと、男性型、女性型脱毛症に対する明確な効果、さらに、抗がん剤治療による脱毛症に対して新たな治療法や予防法として適用できないか検討を進めます。抗がん剤治療を受ける方の不安を少しでも取り除き、さらに抗がん剤による脱毛と闘う方のアピアランスケアの一助となることを目指します。
▼日本がんサポーティブケア学会とは
日本がんサポーティブケア学会(JASCC)は、がん患者に必要な支持療法について学術的活動を行う団体で、多職種が参画するチーム医療のもと、がん治療を安全で効果的に実施するための支持療法を発展させ、学際的・学術的研究を推進し、その実践と教育活動を通して国民の福祉に貢献することを目的としています。
第8回日本がんサポーティブケア学会学術集会(大会長 齋藤光江・順天堂大学医学部乳腺腫瘍学講座 主任教授)は、国際がんサポーティブケア学会(MASCC)との初めての合同開催で、かつアジア初のMASCC開催も盛会裏に終わり、世界的な学術組織で日本のプレゼンスが発揮されました。
参考元:http://jascc.jp/about/aims/; 第8回日本がんサポーティブケア学会学術集会 (https://www.c-linkage.co.jp/jascc2023/index.html)