聖マリアンナ医科大学 特任教授
井上 肇(いのうえ はじめ)
「痛風=ビール好きな中年男性がなる病気」というイメージから、自分とは無縁のないものだと思っていた女性が、ある日突然、足の親指関節の激痛に襲われる……近年、そんなケースが増え始めています。
そもそも痛風はなぜ圧倒的に男性に多く、女性に少ない病気となっているのでしょうか。それは痛風の原因が尿酸であり、女性の場合は、腎臓での尿酸の再吸収を抑える働きを女性ホルモンが果たしてくれることから、体に痛みを引き起こす針状の尿酸結晶を作りにくい。つまり男性よりも血液中の尿酸値(血清尿酸値)が低いため、そのぶん痛風を発症しにくい、と考えられています。
一方で、「最近の食生活から見ても、女性が痛風をわずらわないという理屈は成り立ちません」と話すのは、井上肇・聖マリアンナ医科大学 特任教授。たとえば、ひと昔前まではオヤジしか食べなかったもつ鍋、焼き鳥といった高プリン含有量の料理。近年、女子会などで人気のメニューですが、これをお酒と一緒に楽しむ場合、結果的に男性と同じ量か、時にそれ以上のプリン体を摂取してしまっていることも少なくありません。尿酸はプリン体の代謝により生じる老廃物なので、これが女性の痛風増加につながっている、というわけです。
これが更年期を迎える女性の場合は、尿酸排出の手助けをしてくれる女性ホルモンも急激に減少し始めており、なおさら食事内容への配慮が必要です。
アルコールの中でも特にビールは、痛風を惹起するプリン体を多く含んでいます。(100mLあたり4〜10mg位)。その一方、ワインやウイスキーなどはビールの1/10以下。さらに焼酎となるとプリン体はほとんど含まれていません。ですから、とりわけビールばかりを飲み続けながら、同じくプリン体を多く含む肉や内臓類の加工品(珍味)を摂取すると、実際に痛風になりやすいといえます。
痛風発症を免れるためには、何といってもアルコール摂取をほどほどに。飲む場合もアルコールの種類を意識的に選ぶことが大切です。
また、肉やプリン体を含む食事をする際には、常に同じ量の野菜を摂取することを意識してください。ドレッシングもノンオイル系が良いでしょう。「肉系統の食事に終始すると、どうしてもプリン体=尿酸の原料が増えると同時に、体が酸性側に傾きがちです。尿酸はもともと水に溶けにくいのですが、酸性に傾くとさらに溶けにくくなり、あっという間に関節に析出して痛風発作を引き起こします。脱水に注意して、身体をアルカリ側に傾けることが大変重要です」と井上先生。
さらには偏った食生活が痛風を招いてしまうケースも。「特に日本女性の場合、炭水化物抜きダイエットなどで高たんぱく質の食事を試みているときは、どうしても蛋白摂取(=プリン体摂取)が増えます。このことも、女性の痛風が増えている一因といえるでしょう。また、ストレスがかかると往々にして食生活が不規則になり、脱水になりがち。それなのに濃い味の食べ物、コッテリした食材を摂りたくなるものです。こういった食行動が痛風を引き起こすことはよく知られています」。
ちなみに痛風を発病する女性の割合は、欧米が20%、台湾などが8%である一方、日本は1.5%くらい。日本の女性の発病率はヘルシーな日本食のおかげか、今のところ極端に少ないですが、食生活や生活習慣の変化によって今後さらに増えていく可能性は無視できません。
痛風とは文字通り「産毛がそよぐ程度の風が当たっても痛い病気」ですが、残念ながら、初期症状というのはほとんどありません。事前に気づくためには、定期検査を欠かさず受けておきましょう。もし尿酸値が高いと指摘されたら、それは痛風になる可能性が高まっているサイン。「実際に足の親指関節が痛み出せば、もはや痛風発症です。その前に検査結果をよく理解することが重要です」。
(文・合六美和)
この記事の監修
聖マリアンナ医科大学 特任教授
日本臨床薬理学会 認定薬剤師/日本臨床薬理学会 指導薬剤師
井上 肇(いのうえ はじめ)
星薬科大学薬学部卒、同大学院薬学研究科修了。聖マリアンナ医科大学・形成外科学教室内幹細胞再生医学(アンファー寄附)講座 特任教授及び講座代表。幹細胞を用いた再生医療研究、毛髪再生研究、食育からの生活習慣病の予防医学的研究、アンチエイジング研究を展開している。
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