慶応義塾大学医学部耳鼻嗚咽科専任講師
神崎 晶(かんざき しょう)
鼻がつまっていると寝苦しかったり、食べ物の味がわかりにくかったり、仕事や勉強の集中力が低下したり……。不自由なことがたくさんありますよね。
鼻づまりには風邪、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、骨格の歪みなどさまざまな場合が考えられますが、それぞれ原因や対処法が異なります。
今回は慶応義塾大学の神崎晶先生に、鼻づまりの原因やメカニズムについてお聞きしました。
「鼻づまりの原因は、風邪、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎が代表的です。それ以外にも、腫瘍やがんなどが原因で鼻づまりになることもあります。たまに患者さんから質問されることがありますが、食べ物の影響によって鼻がつまるということはまずありません」(神崎先生)
また、風邪やアレルギー性鼻炎など、それぞれの鼻づまりが発生するメカニズムもお聞きしました。
風邪のときに鼻がつまる原因は、風邪ウイルスによって急性鼻炎が発症することです。急性鼻炎とは鼻の粘膜に急性の炎症が生じること。炎症によって鼻の粘膜が腫れて狭くなり、鼻がつまってしまいます。
(画像:アレルギー性鼻炎|慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイトKOMPASより引用)
アレルギー性鼻炎も風邪による鼻づまりと同様に、鼻の粘膜が腫れて狭くなってしまうことによって発生します。中でも花粉症による鼻づまりは、花粉の侵入を防ぐために鼻腔内が狭くなるという人間の本能的なメカニズムによって発生します。
アレルギー性鼻炎は花粉、ダニ、ハウスダスト、ホコリなどが原因で発生する鼻炎のことです。特にスギ花粉による花粉症は国民病とまで言われるほど、悩んでいる人が増加中です。アレルギー性鼻炎になると、鼻づまり以外にもくしゃみや鼻のかゆみなどの症状が現れることもあります。
鼻や眼を取り巻くように存在している複数の骨の空洞を「副鼻腔」と呼びます。風邪をひいたときの急性鼻炎などが原因で粘膜の炎症が鼻腔から副鼻腔にまで広がってしまうと、急性副鼻腔炎が発生します。副鼻腔炎が発生すると、骨の奥にある空洞に膿が溜まって鼻がつまる原因になります。
また、3ヵ月以上膿が溜まり続けると慢性副鼻腔炎になり、慢性的に鼻がつまった状態になります。
私たちの骨格には、鼻腔を左右に隔てている「鼻中隔」という壁が存在します。この鼻中隔がどちらかに大きく「くの字型」に曲がっていると、空気の流れが悪くなり鼻がつまります。
「風邪による鼻づまりは、風邪薬を飲んでヒスタミンの発生を抑える治療が一般的です。アレルギー性鼻炎による鼻づまりも、風邪と同様に投薬治療によってヒスタミンの発生を抑える治療を行います。しかし、花粉症やダニアレルギーなど長期間症状が続く鼻づまりの場合は、レーザーや粘膜切除術によって治療をした方が良いケースもあります」(神崎先生)
(画像:アレルギー性鼻炎|慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイトKOMPASより引用)
レーザーで腫れている粘膜部分を焼いて粘膜を縮小させたり、膨張している粘膜を切除したりして鼻の通りを良くするという方法もあるそうです。
「慢性副鼻腔炎の場合は、およそ8割の方が抗生剤を数ヵ月服用することで改善します。それでも症状が改善されない場合は、手術を行うこともあります。骨格の歪みによる鼻づまりも手術によって改善します」(神崎先生)
冬になると鼻がつまりやすくなると感じる方も少なくないでしょう。
これは、気温の変化に伴う「寒暖差」が原因ではないかと神崎先生は話しています。
「冬は寒い屋外から、暖かい室内に移動することがありますよね。この急激な気温差により鼻の粘膜が過敏になり腫れてしまうこともあるのです。この鼻炎は血管運動性鼻炎といって、鼻の粘膜に通っている血管が膨らむことで粘膜も腫れてしまうという現象です」(神崎先生)
もちろん、夏でも暑い屋外と涼しい室内との温度差によって鼻炎が発症することもあるそうです。発症は女性にやや多いと言われていますが、原因は明確になっていないとのことです。真夏や冬は冷暖房の温度に気を遣い、できるだけ体を急激な気温差にさらさないように心がけましょう。
「寒暖差以外にも、冬は風邪をひきやすいので、鼻がつまりやすいという印象を持つのかもしれませんね」(神崎先生)
日中活動しているときはそこまで気にならないのに、就寝中は鼻がつまって寝苦しいと感じることもあります。その原因について、神崎先生にお聞きしました。
「夜になると鼻がつまりやすいと感じる原因は、ホルモンバランスの影響です。ただし、真夜中というよりも明け方ですね。特にアレルギー性鼻炎による鼻づまりは、明け方から朝にかけて最も鼻がつまりやすいという特徴があります。鼻がつまるといびきも発生しやすくなるので、鼻がつまっている方は朝方になるといびきもよりひどくなるかもしれません」(神崎先生)
鼻炎の薬が就寝前に服用するよう設定されていることが多いのも、「一般的に、眠くなりやすい成分が入っているものが多いことと、アレルギー性鼻炎の鼻づまりが夜に発生しやすいことを考慮しているためではないか」と神崎先生は話していました。
お子さんの鼻づまりに頭を悩ませているご両親もいるでしょう。
神崎先生によると、子どもの鼻づまりの原因で多いのは「アデノイド」というリンパ組織によるものだそうです。
アデノイドは鼻の一番奥にあるリンパ組織で、子どもの場合はそれが大人よりも発達していて大きいという特徴があります。そのため鼻が通りにくくなり、鼻づまりを引き起こすのだそうです。このアデノイドは、大人になると徐々に小さくなるということです。
ただし、赤ちゃんの場合はアデノイドがそこまで発達していないため、アデノイドが鼻づまりの原因になることは考えにくいとのこと。骨格が未発達で副鼻腔自体がほとんど存在しないため、副鼻腔炎も発生しにくいということです。
「赤ちゃんは骨格が歪んでいるということもほとんどないので、鼻中隔による鼻づまりもないでしょう。花粉やダニによるアレルギーが発症しているとも考えにくいので、赤ちゃんの鼻づまりの原因となるのはおそらく風邪ではないでしょうか」(神崎先生)
風邪などで鼻水が大量に発生して、その鼻水が単純に溜まっていることが赤ちゃんの鼻づまりの原因ではないかと話す神崎先生。赤ちゃんは自分で鼻をかむことができませんから、どうしても鼻水が溜まりやすいのだそうです。
赤ちゃんの鼻がつまっているように思えるときは、溜まった鼻水をお母さんが吸引器でこまめに吸ってあげたり、耳鼻科で吸引してもらったりするなどの方法がおすすめということでした。
鼻水が出ないのに鼻がつまっていると感じる場合は、骨格の歪みが原因の可能性が高いということです。
「骨格の歪みがひどい場合は、鼻水が外に出ないで、喉を通ってたんとして溜まっていくことがあります。朝起きて、たんが溜まっていると感じるなら、骨格が歪んでいる可能性があります」(神崎先生)
骨格の歪みによる鼻づまりは、手術によって改善することができます。骨格の内側だけを変えるので手術後も他人に気づかれることもなく、保険適応で費用も3万円(確認中)前後で収まることが多いそうです(麻酔費や入院費が別途発生するケースもあります)。
「スポーツ選手は少しでも鼻が曲がっていると手術をするといわれるほど、鼻の通りは重要なのです。花粉症を手術で改善したら、成績が急激に良くなったというアスリートもいます」(神崎先生)
鼻づまりは日常のいろいろなことに影響を及ぼすので、気になっている人は早めに対策を練るのが得策かもしれません。
この記事の監修
慶応義塾大学医学部耳鼻嗚咽科専任講師
医学博士/日本耳鼻咽喉科専門医
神崎 晶(かんざき しょう)
日本耳鼻咽喉科専門医、アレルギー学会専門医、補聴器適合判定医、補聴器相談医、騒音難聴認定医、めまい相談医。日本耳鼻咽喉科学会、日本耳科学会、日本聴覚医学会、アレルギー学会など多数の学会に所属。2013年、1st Global Otology Research Forum(GLORF)Award(第1回グローバル耳科研究フォーラム賞)、平成26年度日本医学会医学研究奨励賞、財団法人長寿科学振興財団 会長賞(平成19年度)
など受賞歴あり。
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