寒さの影響で冬場は血圧の変動が大きい季節。
温度の急激な変化によって血圧が急変動することで起こる健康被害「ヒートショック」のリスクは近年よく知られるようになりましたが、 意外と見逃されがちなのが“ストレスと血圧上昇”の深い関係!
心臓は拍動するごとに、血液を体内に流し出します。このとき、血管壁に加わる圧力が血圧。
● 心臓が縮んだときに血管壁にかかる圧力=「収縮期血圧」(血圧測定時の上の値。「最高血圧」とも呼ばれる)
● 縮んだ心臓が広がるときに血管壁にかかる圧力=「拡張期血圧」(下の値。「最低血圧」)
血管は若いときには弾力がありますが、加齢とともに弾力を失い、硬くなっていきます。これが血管の老化になります。血管が硬くなると、心臓の拍動が動脈に与える衝撃が吸収されず、血圧が上昇(結果として、心臓や腎臓など全身の臓器に悪影響を及ぼすことにも)。高齢者の収縮期血圧が上がりやすくなるのはこのためなのです。
日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2014」は、収縮期血圧140mmHg以上、拡張器血圧90mmHg以上を高血圧としています(なお、どの数値以下を低血圧というかについては、明確な基準が定められていません)。
高血圧は以下の2つにわけられます。
●「1次性高血圧(本態性高血圧)」
特定の原因を絞り込むことができず、遺伝と生活習慣(塩分過剰な食生活や肥満など)が大きく関わっているとされます。
●「2次性高血圧」
腎臓病やホルモン分泌の異常、薬の副作用など、原因がわかっている高血圧のこと。日本人の高血圧の大半が前者の1次性高血圧といわれています。塩分の摂り過ぎや肥満の他、もともと高血圧になりやすい体質や過度の飲酒、運動不足、ストレス、喫煙などが原因で発症すると考えられています (中でも、肥満には要注意。内臓脂肪が増えると、蓄積した脂肪細胞から血圧を上昇させる悪玉の生理活性物質が多く分泌され、高血圧に)。
数ある生活習慣病の中でも日本人に多く、国民病とも呼ばれるのが高血圧(“日本人の3人に1人が高血圧”というデータも!)。一般に、血圧は高齢になるほど高くなる傾向にありますが、日本では30代、40代でもすでに約半数が高血圧の状態といわれています。
頭が重い、めまいがする、首筋が凝るといった症状をともなう場合がありますが、高血圧に特徴的な自覚症状はないといわれます。高血圧症が重度の場合は、これらの症状に当てはまる場合も。気になる症状があれば、専門医に相談しましょう。
高血圧の状態を放置することにより促進される【動脈硬化】が引き金となる、重大な病気のリスクとしてよく知られているのが、【脳卒中】(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)と【心疾患】(心筋梗塞、狭心症など)、 【慢性腎臓病】の3つ。
メカニズムとしては長年血管に強い圧力がかかると、血管が破れます(特に、脳出血は命取りに)。
また、血管内部の脂質の蓄積が助長され、心筋梗塞や脳梗塞などが起こりやすくなります。他にも、腎臓に負担がかかり、尿に蛋白が漏れ出てきやすくなり、尿検査で「尿蛋白+」などの結果に。
血圧は心臓や血液などさまざまな要因で変化しますが、血圧の決定要因のひとつが“末梢血管の抵抗”。冬は寒いため、からだの熱が外部へ逃げるのを阻止しようとして、血管が収縮して細くなります。すると血管の断面積が減り、血液を送るために大きな力(血圧)が必要に。
血圧が高めで日々の食事内容に気を配っていても、意外と見過ごしてしまいがちなのがストレスの存在。
ストレスには、【肉体的ストレス】(気温や湿度などの気候条件の他、疲労や緊張、睡眠不足など)と、【心理的ストレス】(さまざまな悩みや怒り、興奮、精神的ショックなど)がありますが、いずれの場合も、人はストレスを受けると血圧が一時的に上昇します。
これはストレスに対抗するための防御反応で、いい意味での“緊張状態”が発生しているともいえるそう。ですが、ストレスを受けた状態が長期間続くと、ストレスに弱いタイプの人は、 慢性的な高血圧状態になりやすいといわれます。
また、活性酸素によってからだが受けるストレスも血圧に影響するといわれています。
【高齢者】
高齢者は軽いストレスでも血圧の変動が起こりやすく、からだが血圧を調節する機能も低下しているため、ストレスには特に注意が必要。 家族が高齢の場合も同様です(特に災害や家族関係の変化、転居などの【環境の変化】は高齢者にとって大きなストレスに)。
【メタボリックシンドローム】
動脈硬化の危険因子が複数あり、血圧にも影響を与えやすい。
さまざまなストレスと上手につき合い、“血圧の急変動”を起こさないための対処法は知っておきたいもの。誰でも簡単に取り入れられる7つの方法をここで紹介!
・冬は特に温度差に注意する(家の寒いところには暖房器具を置く、熱すぎるお湯に入るのは避けるなど)
・朝はゆっくりと起床する(朝は血圧が高くなるので、軽くからだを動かして温めてから出かける余裕を持つのが理想的)
・日頃から血圧が高めの人は、無理な運動や仕事などでのストレスに注意。塩分を控えた食事や血圧管理(定期的な血圧測定など)も大切
・家庭での血圧が高めになっている場合は、ストレスも疑う(慢性的な疲労や睡眠不足、胃腸の不調、風邪をひきやすい、頭痛や肩凝りが多いといった症状はストレスのサインかも!
また、慢性的な飲酒過多も血圧を高めるといわれます)
・自分の抱えているストレスに気づき、脳をリラックスさせる習慣を持つ(入浴や睡眠前の時間を楽しむなど)、適度な運動や趣味などで積極的に気分転換を図るなど
・からだの抗酸化力を高める食事を心掛ける
・深呼吸をする(一時的にでも、血圧を下げる効果あり!)
一般的に【減塩】、【減量】、【節酒】の3つが推奨されていますが、特に大切とされているのが減塩。
実際、日本人のほとんどが必要量をはるかに超える食塩を摂っており、2015年時点で成人1日あたりの食塩平均摂取量は(年々減る傾向にあるとはいえ)、男性で11.0g、女性で9.2g(厚生労働省「平成27年国民健康・栄養調査結果の概要」より)。
ちなみに、世界保健機関(WHO)は世界中の人の食塩摂取目標を1日5gとしています。日本では、厚生労働省が「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」にて、【18歳以上の男性は1日当たり8.0g未満、18歳以上の女性は1日当たり7.0g未満】という目標量が定められています(さらに、「日本高血圧学会減塩委員会」は、高血圧予防のために、【1日6g未満】という制限を推奨)。
減塩が重要なのは、塩に含まれるナトリウムをからだにたくさん取り入れることによって血圧が上昇するため。血圧が気になる方は【塩分摂取を1日6g未満にする】ことを心掛けてみては。
ファストフードや加工食品など外食に頼りすぎないことも減塩のポイント(新鮮でバランスの取れた食品を選び、なるべく自分で調理したいもの。新鮮な野菜や果物でカリウムをたっぷり摂ると、余分な塩分の排出もスムーズに)。
高血圧の状態を長年放置していると、それだけ血管の傷みも進行するといいます。まだまだ続く寒い季節、急激な温度差や塩分の多い食事に気をつけるとともに、心身に日夜降りかかるさまざまなストレスにも敏感になり、血圧問題での心配が少ない、健康なからだを目指しましょう。
(文・大津礼保奈)
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