日本形成外科学会専門医/麻酔科標榜医
脇坂 長興(わきさか ながおき)
化粧品や日用品などに含まれている成分が、皮膚を通して体内に吸収される「経皮吸収」。
その中でもからだに悪い成分が体内に侵入し、蓄積することを「経皮毒」などと呼び、注意を促すような文章を目にすることが多くなりました。
そうなると、ふだん使っている製品は大丈夫なのか気になり、不安も増してくるというもの。
日常生活の中で、この「経皮吸収」「経皮毒」をどのように捉えればいいのか、脇坂クリニック大阪院長・脇坂長興先生に、医学的な視点から教えていただきました。
『経皮毒』という言葉や概念は医学の世界にはありません」というのが脇坂先生の第一声。まず、「皮膚は表皮・真皮・皮下組織と何層もの構造でできており、これらを突破して体内に浸透させるには、かなり細かい分子レベルでなければ不可能。さらに、それぞれが防御機能を持っており、外部からの物質の侵入を阻んでいます」とのこと。一部の合成界面活性剤や溶解剤を問題視し、それらが「経皮毒」になると捉える向きがあるようですが、一般的に売られている化粧品や日用品を、健康な状態で正しく使用しているのであれば「神経質になり過ぎなくて大丈夫」とのアドバイスでした。
さらに、経皮吸収した成分を全身へと運ぶためには、血管を突破し、血液に混じって運ばせる必要があるわけですが、皮膚の一番上層である表皮には毛細血管は通っておらず、その下にある真皮、そして皮下組織にまで浸透しなければ、血管に届きません。ただ、多くの物質は、表皮の一番外側にある角質層でブロックされ、万が一角質層を通ったとしても、果粒層、有棘層、基底層のセキュリティが待ち受けており、シャンプーやヘアカラー剤などの日用品がそれらすべてを通過するというのは、現実的に考えられないことなのだそう。
ただし、「表皮を突破するのは難しいとしても、毛穴から成分が侵入して毛穴内部の組織を通過し、血液に入るという可能性はゼロではない」ということ。頭皮、脇の下、デリケートゾーンなど毛量の多い部分は、経皮吸収の割合が高いといわれるのは、そういったことが理由かもしれません。角質がない粘膜部分も同様。角質層というブロックするものがないため、浸透しやすいといえます。その場合も、血液には悪いものから自身を守る免疫システムが働いているため、すべてが体内に浸透してしまう……という偏った思い込みや過度の心配はいらないようです。
私たちが覚えておきたいのは、皮膚の角質層が悪い物質を体内に浸透していくのをブロックしているということ。「角質」と聞くと、美容的にはあまり良いイメージがないかもしれませんが、からだの機能的には大切な役割を担っているのです。その角質層を適度に保つためには、洗い過ぎないことが大切。脇坂先生いわく、「普通の生活をしているのであれば、シャンプーするのも石けんでからだを洗うのも1日1回で十分。皮膚表面の皮脂や常在菌は天然クリームのようなもの」なのだそう。
さらに、一定の時間頭皮に塗布するヘアカラー剤などの使用は、説明書に書いてある使い方を守ること。これは、ヘアカラー剤だけではないですが、間違った使い方をしたり、極端に使用頻度が多かったりすると、皮膚の表面が荒れて、角質層が本来持っているブロック機能を果たせなくなる可能性もあります。
私たちのからだは、本来悪いものの侵入をブロックする機能を備え、万が一体内に入ってもデトックス(解毒する)働きがあります。すべてに無頓着なのは考えものですが、身の回りのものすべてに神経をとがらせる必要はなさそう。ただ、私たちの体が本来の働きをするには、健康であってこそ。正しく機能させるためにも、心身ともにストレスを溜めない健やかな日々を心掛けたいですね。
(文・川原好恵)
この記事の監修
日本形成外科学会専門医/麻酔科標榜医
日本形成外科学会専門医/麻酔科標榜医/日本美容医療協会会員/特定非営利活動法人F.M.L.理事/医療法人 翠奏会理事長/聖マリアンナ医科大学幹細胞再生医学寄附講座講師
脇坂 長興(わきさか ながおき)
1962年生まれ。聖マリアンナ医科大学医学部卒業。
同大学病院の形成外科で skin rejuvenationを研究。
方法論よりも患者様が一番良くなる治療を提供することが 形成外科医の使命であると考えている。
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