津川 浩一郎
国立がん研究センターのまとめによると、女性の中でがん患者死亡率第5位(2014年調査)、がんと診断された女性の中で患う部位では第1位(2011年調査)に乳房が挙げられているほど、決して見逃すことはできない「乳がん」。「乳がんは早期発見と適切な治療をおこなえば、生存率も高くなっているため、定期検診やセルフチェックで自分の胸のことを知ることが大切なのです」と語るのは、聖マリアンナ医科大学の乳腺・内分泌外科 津川 浩一郎教授。生涯に乳がんを患う日本人女性は、現在、12人に1人[※1]といわれている疾患に、どのように対処していけばいいのでしょうか。乳がんの症状やセルフチェック法など、今からでも知っておきたい乳がんの基礎知識をもう一度おさらいしてみましょう。
そもそも「癌(がん)」はどのような仕組みで発症するものなるのでしょうか? 「複数の遺伝子変化の蓄積によって、正常な細胞からがん細胞に変化していくという説が多くの研究者に支持されています。でも、一段階の異常ではがん細胞にはなりにくい。つまり、いくつもの異常が重なってがん細胞へと暴走してしまうのです。乳がんは、乳房の乳腺にできるがんのことをいいます。乳腺に張り巡らされている正常な乳管の上皮に異常が発生し、がん細胞へと発展していきます。乳管内に留まる『非浸潤がん』、さらに乳管の外へ広がり、他の部位へ転移する『浸潤がん』と進展していきます」。
統計からみる日本の乳がん事情では、新しく乳がんになる人は一年で約9万人。乳がんで亡くなる人は約1.3万人といわれています。働き盛りの女性(30歳〜64歳)のがん死亡の第1位、発症するピーク年齢は40代後半が一番多く、高齢者に増加しています。ですが、若い年代で乳がんを患う女性も少なくありません。油断は禁物です」。
乳がんの初発症状は主に
・ しこり(乳腺の腫大、腫瘤、硬結、結節)
・ 乳房の痛み
・ 乳頭のびらん(乳頭がただれのような症状をおこす「パジェット病」)
・ 乳頭異常分泌(出血)
・ 腋(わき)の下のリンパ節の腫大
などが挙げられます。中でも「しこり」は、乳がん発見の90%以上と最も多い症状です。
先ほども話したとおり、乳がんには乳管内に留まる「非浸潤がん」と、さらに乳管の外へ広がり、他の部位へ転移する「浸潤がん」の2つがあります。乳がんはがんの進行度にともない、治療法が異なります[※2]。
手術をした後、放射線療法や薬で治療を進める。または、しこりが大きい、リンパ節転移があるなど、局所で進行した場合には手術前に化学療法でがん細胞を小さくしてから手術で摘出する方法(その後、放射線療法)
手術はせず、化学療法
乳管内にとどまる非浸潤がんは、がんが転移することは少ないので局所治療のみで治癒が期待できます。しかしながら、上皮細胞〜基底膜を破り浸潤がんになると血管に転移している可能性があります。そのため局所治療のみならず、全身治療が必要になります。転移がんになると全身治療が主体となります。
疫学研究から確認された、乳がんにかかりやすいといわれるリスクファクターは以下のとおり。
・ 乳がん患者が家族にいる
・ 初経(生理が来た)年齢が若い
・ 閉経年齢が遅いこと
・ 出産経験がない
・ 初産年齢が高い
・ 授乳経験がない
・ 授乳期間が短い
・ 肥満
しかし、乳がんは食生活の変化や女性の社会進出、ストレスなどさまざまな要因で発症することもあり、上記の項目に該当しないからといって「乳がんにならない」とは断言できません。それだけ乳がん予防は難しいといえるのです。
では、私たちはどのような予防をすればいいのでしょうか? 現在、乳がん検診の代表的な検査方法として、マンモグラフィと超音波検査(エコ−)、触診の3つが挙げられます。日本人はとくに乳腺濃度が濃いため、乳腺やがんが白く映ってしまうマンモグラフィ検査だけではがん細胞を見落としてしまうケースも。心配であれば、エコー(超音波)とW検査をして、見落とすリスクを減らしていくのもひとつの手です。
検診のほかにも、自分の胸を触って自己検診する方法もあります。現に、胸のしこりをダンナさまやパートナーから教えてもらったというケースも少なくないとか。月に一度、セルフチェックをおこない、胸の変化に気づくことも必要です。
●自己検診の方法はこちら(NPO法人乳房健康研究会)
(文・長谷川真弓)
※1 国立がん研究センターがん対策情報センター 「がん情報サービス」
最新がん統計>3.がん罹患(新たにがんと診断されること 全国推計値)_5)がんに罹患する確率~累積罹患リスク(2012年データに基づく)より
※2 日本乳癌学会編「乳癌取り扱い規約 第17版」より
この記事の監修
津川 浩一郎
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