メディカルチェックスタジオ東京銀座クリニック 院長
知久 正明(ちく・まさあき)
立ち上がるときにふらっとしてその場にしゃがみこんだり、目の前が白くなってしまったり……。そんな立ちくらみの症状を感じたことはありませんか?
特に女性に多いといわれている立ちくらみですが、実は重大な病気が潜んでいたり、立ちくらみによる転倒で怪我をしたりする可能性があるので注意が必要です。軽度の立ちくらみであっても、原因がわからないと不安に感じることもあるでしょう。
今回は立ちくらみのメカニズムや予防法を、医療法人社団ウェルエイジング ウィメンズヘルスクリニック東京の知久正明先生にお聞きしました。
「立ち上がったときにくらくらしたり、目の前が白くなって気を失いそうになったりする症状が立ちくらみです。血流が低下して頭に酸素が十分に行き届かないことで脳貧血が発生し、立ちくらみが起こります。立ちくらみは別名、起立性低血圧とも呼ばれています」(知久先生)
立ちくらみによって失神したり、気を失ったりすることもあります。その際に心配なのが転倒による怪我です。
「周囲に人がいる状況であれば誰かがサポートしてくれますが、一人暮らしの方などは心配です。駅のプラットホームで失神して線路に転落してしまうといった、非常に危険なケースも想定されます」(知久先生)
立ちくらみの原因は、軽度の自律神経障害の場合もあれば、重大な病気である場合もあります。「ただの立ちくらみだから大丈夫」と油断せずに、頻度が多い場合はクリニックを受診してみるのがよいでしょう。
知久先生によると、立ちくらみが発生しやすい状況として、以下のようなシーンが想定されるそうです。
入浴によって体が温まると、末梢の血管が広がって血流が低下します。血流が低下すると頭まで血液を運びづらくなり、立ちくらみが起こります。
ダイエットによる食事制限で栄養が不足して、自律神経異常や貧血を発症すると起きやすくなります。ダイエット中でも無理な食事制限をせず、適切な食事・運動療法によって健康に害のない範囲で行いましょう。
気温の高い夏の日中などは、熱中症などによって立ちくらみが起こる可能性があります。暑さによる睡眠不足で起こる自律神経異常が、立ちくらみの原因になることもあります。
体を横たえている就寝中は心臓から頭に向かってスムーズに血が流れていますが、立った瞬間は重力に逆らって頭に血液を送らなければいけません。それに対応できない場合に、立ちくらみが起こります。
その他にも予期せぬ大きなショックを受けたとき、精神的なストレスを感じたときなどに、血管迷走神経が過剰に反応して血圧や脈拍が下がり立ちくらみや失神が起こる場合もあります。
立ちくらみの大きな原因となるのが自律神経異常です。
私たちの体内は血圧が下がると、それを感知して自律神経に指令を送ります。指令を受けた自律神経は交感神経を活性化させ、逆に副交感神経の働きをセーブします。活性化された交感神経は末梢の血管を収縮させて心拍数を上げ、脳への血流を促し、血圧低下を防ぐのです。
この自律神経の働きに問題がある場合、起立性低血圧、つまり立ちくらみが発生しやすくなります。
自律神経異常以外にも、慢性的な低血圧や貧血が立ちくらみの原因になることがあります。
血圧が低い人は脳への血流量を保つことができず、立ちくらみが起こりやすくなります。低血圧は女性に多いといわれています。
適度な運動は自律神経を整えるのに非常に有効な方法です。夏は比較的涼しい朝や夕方、冬は暖かい日中に30分程度のウォーキングをするのが効果的です。
貧血によって血液の循環量が減ると、立ちくらみを悪化させる原因になります。
高血圧の人が服用している血圧を下げる薬やサプリメントの中には、副作用に立ちくらみがあることがあります。最近立ちくらみが多くなったと感じたら、飲んでいる薬を見直してみましょう。
「立ちくらみは男性よりも女性に起こりやすいといわれています。男性は立ちくらみの原因となる貧血や低血圧も少ないためです」(知久先生)
「妊娠中の女性は胎盤を通って血液が赤ちゃんに運ばれるため、母体の循環血液量が減ることで相対的な貧血や立ちくらみを感じやすくなることがあります。また、妊娠中のつわりによる栄養不足で、立ちくらみを感じやすくなる可能性もあるでしょう」(知久先生)
妊娠中の立ちくらみによる転倒は特に危険ですので、バランスのよい食事でしっかり栄養を摂取して、貧血や立ちくらみを予防しましょう。
思春期の中学生や高校生は体が急激に成長するため、自律神経の成長が追いつかず、自律神経のバランスが乱れやすくなります。それによって、めまいや立ちくらみが起こりやすくなるといわれています。
「中学生・高校生の中でも、普段から運動しない人、夜更かしなどで生活スタイルが乱れている人、ダイエットで食事量をセーブしている人などは要注意です。思春期は自律神経のバランスが特に乱れやすいので、生活習慣には気を配りましょう」(知久先生)
血圧が低い人は脚や手など末端部分の血管収縮力が弱いため、脳への血流量を保つことができず立ちくらみが起こりやすくなります。一方、高血圧で血圧を下げる薬を飲んでいる人は、その副作用で立ちくらみになることもあります。
貧血によって血液の循環量が減ると、立ちくらみを悪化させる原因になります。
つまり、立ちくらみを予防するためには貧血を予防することも大切です。貧血予防に有効な対策は、食事でしっかり鉄分を摂取することです。体内にしっかり吸収される「ヘム鉄」を含むレバー、イワシ、カツオ、牛乳などの食品を積極的に摂取しましょう。
過度なダイエットによって食事量が減ると鉄分摂取量も低下するので、ダイエット中でも必要な栄養素を最低限摂取するように気を配ってください。
「立ちくらみが起こったら、まずは座って安静にすること。そして、普段から規則正しい生活と適度な睡眠を心がけて自律神経のバランスを整えましょう」と知久先生。
低血圧の人は適度な運動をして、貧血の人はヘム鉄をしっかり摂取する。薬剤の副作用の可能性があれば、薬剤の変更や中断を検討しましょう。
軽度な立ちくらみは誰にでも起こるものですが、 立ちくらみによる転倒はとても危険です。立ちくらみ防止のためにも、ぜひ今回の記事を参考にしてみてください。
この記事の監修
メディカルチェックスタジオ東京銀座クリニック 院長
医学博士
知久 正明(ちく・まさあき)
東京都出身、1994年日本大学医学部卒業、2000年日本大学医学部大学院修了
国立甲府病院、国立循環器病センター、日本大学医学部循環器内科、敬愛病院付属クリニック院長を経て、
2017年12月からMCS東京銀座クリニックを開業
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