聖マリアンナ医科大学 特任教授
井上 肇(いのうえ はじめ)
学生時代、「歳をとると、運動後の筋肉痛が2~3日後に現れるんだよ」と、大人たちから散々吹聴され、それが老化のサインなのか…、と感じた経験、あるのではないでしょうか?
30代を迎え、久しぶりにハードな運動をした後、翌日に筋肉痛が起こらず、ホっとしたのもつかの間、2~3日後に遅れて筋肉痛に! ついに自分も老化したのか……と、落胆する人は多いようです。
私たちは、歩く、パソコンを利用する、軽く掃除をする等の生活活動では、酸素を利用してエネルギーを産生しています。このエネルギーは、産生するまで時間はかかりますが、廃棄物を出さないので、筋肉痛を起こしません。
一方、ややキツめの運動で筋肉を伸縮させるには、短時間でたくさんのエネルギーを必要とします。手っ取り早く産生するため、酸素を使わず、体内のグリコーゲンからブドウ糖をつくり、そのブドウ糖を利用した解糖系という代謝経路からエネルギーを産生。その際、廃棄物として乳酸がたくさん出てしまうのです。
じつは、運動後に筋肉が痛くなるメカニズムは、まだハッキリと解明されていません。諸説ありますが、運動刺激で筋線維が切れ、その炎症で痛みが出ると考えられています。さらに、筋肉周囲に溜まった乳酸が、周囲の環境を酸性に傾け(通常、体内は弱アルカリ性)、知覚神経を刺激。そのため、しびれやだるさを感じるのではないか、という説もあります。
運動後には、筋肉が張ったり(腫脹)、周囲が熱を持ったり(熱感)、赤みが出たり(発赤)、筋肉痛が出て(疼痛)、動きが悪くなる(機能障害)という炎症反応のプロセスが発症。さらに、加齢に伴う新陳代謝の遅延で、筋肉の修復が遅れるため、2~3日後に筋肉痛が出てくるのではないか、といわれています。
痛みは自然に治っていきます。ただ、加齢で新陳代謝が遅くなっている場合、痛みやだるさが長引くことも。1週間くらい続く人もいるそうです。筋肉痛や筋肉疲労によるだるさで、日常生活に支障が出ると、ハードな運動を避けようとしがちに。
しかし、若い方でも、1ヵ月寝たきり状態になると、歩行困難になるほど筋力は低下します。加齢により、年々筋力は低下する上、さらに運動をしなくなると基礎代謝が低下。筋肉量が減ると基礎代謝も低下するので、太りやすくなってしまいます。
筋肉に溜まった乳酸を素早く分解する、ビタミンB1、B2、B6を摂るのがオススメ。B1を多く含む食品は、豚ヒレ肉、生ハム、焼豚、たらこ、青のりなど。B2は豚レバー、牛レバー、焼のり、干しシイタケ。B6はニンニク、マグロ、カツオ、ピスタチオ等に多く含まれています。また、運動で筋肉の神経線維もダメージを受けるので、その再生を促すのがビタミンB12。B12を多く含む食品は、シジミ、赤貝、すじこ、味付けのり等。これらのビタミンB群を含んだサプリメントや医薬品を摂ると、総合的に筋肉痛やだるさを緩和できるでしょう。
運動直後、筋肉が熱を持っていたら、普通の体温程度に戻るまでアイシングしましょう。水を浸したタオルや、冷却スプレーを使用すると便利です。ただし、冷たく感じるだけの冷感スプレーでは、体温は下がらないのでご注意を。運動の数時間後、筋肉の熱が引いてからお風呂やマッサージで血行を良くすると、乳酸が速やかに排泄され、筋肉痛が起こりにくくなります。
日頃、運動をしていない人は、生活活動よりハードに筋肉を収縮すると、筋肉に乳酸が溜まり、筋線維が切れて筋肉痛に。しかし、筋肉痛は悪いことばかりではありません。痛みがあるということは、筋線維を修復しているというサイン。修復されると、前よりも筋力がアップするというメリットがあるのです。加齢により、年々筋力は低下していくので、日常的に筋力をアップする運動をするのは、とても大切。
筋力をつけるのは、無酸素運動が有効です。無酸素運動の代表は、ダンベルで負荷をかける筋力トレーニングや短距離走。他にも、エスカレーターを使わず、階段を昇るのも無酸素運動になります。
筋肉痛は、筋肉を再生している期間に発生します。このとき、タンパク質をしっかり摂っておくと、筋力アップに有効です。スポーツクラブで、運動後にプロテイン入りドリンクを飲むのを推奨しているところがあるのは、そのため。運動後の食事では、肉や魚、大豆などのタンパク質を積極的に摂りましょう。
この記事の監修
聖マリアンナ医科大学 特任教授
日本臨床薬理学会 認定薬剤師/日本臨床薬理学会 指導薬剤師
井上 肇(いのうえ はじめ)
星薬科大学薬学部卒、同大学院薬学研究科修了。聖マリアンナ医科大学・形成外科学教室内幹細胞再生医学(アンファー寄附)講座 特任教授及び講座代表。幹細胞を用いた再生医療研究、毛髪再生研究、食育からの生活習慣病の予防医学的研究、アンチエイジング研究を展開している。
よくある質問