医療法人社団ウェルエイジング・医療法人翠奏会・医療法人リアルエイジ静哉会 総院長/東京女子医科大学 名誉教授/東京薬科大学 客員教授
川島 眞(かわしま まこと)
サンサンと降り注ぐ屋外でのスポーツは気持ちよい汗なのに、仕事で大勢の前でプレゼンや講演をするときなどの手やわきにかく汗は気になるモノ。
でも、ちょっと待って! 他の人に比べて、「自分は汗をかく機会も量も多いのでは?」と感じたことはありませんか?
他人と比べることがないため、その現状を知らない人が多いのですが、最近では、年齢、性別問わず、汗についての悩みを抱いている人が多いと聞きます。
医療法人社団ウェルエイジング・医療法人翠奏会・医療法人リアルエイジ静哉会 総院長 川島 眞先生に、汗のメカニズムと「多汗症」について詳しく教えていただきました。
私たちのからだを健康に維持するためには、不要なものをからだの外へ排出する働きは欠かせません。一番わかりやすいのは尿や便になりますが、汗も重要な役割を担っています。
たとえば、体内の温度調整。からだの温度が上昇すると、温度を下げるため(気化熱の放散)、皮膚の表面に排出されます。
汗は汗腺という皮膚の真皮の部分に存在する組織でつくられており、ほぼ全身の皮膚に分布しているエクリン汗腺と決まった場所(耳、わき、陰部など)にしかみられないアポクリン汗腺の2種でつくられています。
エクリン汗腺は全身に約300万個あるとされ、この汗腺の数は大人になったから増えるというものではなく、子どもも成人も数は変わりません。
1日の汗の量は平均して700~900mlといわれており、その役目は主に体温調節になります。汗を出す指令は、交感神経からアセチルコリンが出されて、汗腺の細胞に伝えられ汗がつくられます。
成分 : 水(99%)。他に塩化ナトリウム・アミノ酸・乳酸・尿素・アンモニアなどで構成
特徴 : 透明でサラサラして無臭
顔に噴き出す汗、わきの汗じみ、緊張して手に汗握るなどはエクリン汗腺からの汗が主体です。
アポクリン汗腺は、わき、耳道、陰部などの特定の部位のみに分布しており、性ホルモンによる調節のもとに水分とともに脂質、タンパク質などを含む汗をつくり、毛穴を通して皮膚表面に排出しています。
アポクリン汗腺でつくられる汗はもともと無臭ですが、毛穴に常在している細菌が汗に含まれている脂質やタンパク質を分解することにより、臭気を発します。いわゆる“わきが(腋臭症)”や“加齢臭”の臭いの元となります。
成分 : 水、タンパク質、脂質、鉄など
特徴 : エクリン汗腺に比べネバネバした感じ。本来は無臭
美容の観点でいえば、汗は角質層に適度な水分を補給したり、外部からの細菌を防ぐ役割を担っています。ですが、この汗も時と場合によっては「招かれざる」モノになっているのも事実なのです。
汗のメカニズムがわかったところで、「人はナゼ汗をかくのか?」についてもう少し深掘りしていきましょう。先ほど発汗の役割は体温調整とお話しましたが、実はそれだけではないのです。ここでは、エクリン汗腺とアポクリン汗腺の汗の出る要因について挙げてみました。
①気温の上昇
②緊張やストレス
③運動
④疾患・外傷・炎症
⑤妊娠・閉経・肥満
⑥食事(香辛料)
①遺伝的要因(家系)
②人種的要因(黒人>白人>日本人の順で発汗の量が異なる)
③年齢的要因(思春期以降の性ホルモンの増加により)
エクリン汗腺の発汗の要因だけでも、緊張やストレス、運動、食材までと多岐にわたります。これにともない、注意すべきことは「汗の量」。明らかに正常値を超える症状を「多汗症」と定義づけていますが、汗の量には個人差が大きく、体質的な「多汗状態」と疾患としての「多汗症」との明確な区別は難しいですね。
ですが、以下のような症状がある人は多汗症の可能性が高いため、治療の必要があります。
・発汗症状が6ヵ月以上も続いている
・仕事や勉強などノートや書類が汗でベタベタになってしまう
・ハンカチが手放せない
・握手ができない
・お風呂に入ると手がふやけた状態が常にある
・わき汗がひどい
・シャツやブラウスの汗じみや黄ばみが目立つ
これらは主に情緒的・精神的刺激によるもので、手のひら、顔、足の裏に多い症状です。見た目にも目立つため、社会生活・日常生活に支障をきたしているケースがほとんどです。ストレス社会で生きている現代人の代表的な病気のひとつかもしれません。
多汗症の具体的な治療法ですが、一般的に知られているのはボトックス注射です。ボトックス注射といえば、しわ治療として知られていますが、A型ボツリヌス毒素製剤は神経終末におけるアセチルコリンの放出を防ぎ、神経から汗腺への情報伝達を遮断することで発汗を抑制します。
わきの場合は1〜2センチ間隔で20〜25ヵ所、手のひらの場合は25〜30ヵ所に注射します。個人差はありますが、注射をしてから数日後に効果があらわれ、汗の量はかなり軽減されると思います。
その他、自律神経切断などの外科的治療が挙げられますが、汗でお悩みの方は一度、専門医に診てもらうことをおすすめします。
次回は、汗とにおいの関係について具体的な対処・予防法を紹介します。
(文・長谷川真弓)
この記事の監修
医療法人社団ウェルエイジング・医療法人翠奏会・医療法人リアルエイジ静哉会 総院長/東京女子医科大学 名誉教授/東京薬科大学 客員教授
東京女子医科大学名誉教授(前・皮膚科主任教授)/日本美容皮膚科学会理事/日本香粧品学会理事長
川島 眞(かわしま まこと)
東京大学医学部卒業。パリ市パスツール研究所に留学。東京大学医学部皮膚科講師などを経て東京女子医科大学 皮膚科学教室 教授・講座主任。アトピー性皮膚炎をはじめ、美容、皮膚ウイルス感染症、接触皮膚炎などを主に研究。2018年4月より医療法人社団ウェルエイジング、医療法人翠奏会、医療法人リアルエイジ静哉会の総院長に就任。
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