聖マリアンナ医科大学 特任教授
井上 肇(いのうえ はじめ)
自分ではなかなか自覚できない「いびき」ですが、放置しておくと危険なケースもありますし、周囲に悪影響を与えてしまう可能性もあるため、できれば早めに改善したいものです。実はひとことでいびきといってもさまざまな原因や種類があり、それによって治療方法も異なるのです。
風邪や花粉症によって発生する鼻閉(鼻づまり)が原因で、いびきが起こることがあります。風邪をひいたりアレルギーで鼻腔内が炎症を起こして腫れたりすることで鼻閉(鼻づまり)が起こると、必要な空気を出し入れするために睡眠時に口呼吸を併用するようになり、これがいびきの原因になります。こういった場合は、耳鼻科等で鼻閉を治療すればいびきを改善することができます。
過剰に飲酒するとアルコールの麻酔作用によって筋肉が緩み、それによって口腔内の舌が睡眠中に垂れ下がり、空気の通り道が狭くなることでいびきをかきやすくなります。これは深酒を避けることで改善が可能です。
しかし、意外と厄介ないびきの原因が「肥満」です。肥満によって首の周囲に脂肪が沈着すると、うまく空気を出し入れできない換気障害が発生し、いびきをかきやすくなります。これは減量によって速やかに改善できますが、そう簡単に減量できるとは限りませんので、普段から肥満には十分に注意しましょう。
耳鼻科領域の疾患や慢性副鼻腔炎・扁桃肥厚などの器質的疾患を患っている人、アレルギー症状が強い人の中には、常に鼻づまりに近い状況で口呼吸を併用しないと苦しいという人もいるでしょう。
このような状況が悪化すると、睡眠時無呼吸症候群を伴う病的ないびきに移行してしまう可能性があります。睡眠時無呼吸症候群は重篤な疾患の引き金にもなりますから、まずは耳鼻科や内科でしっかり疾患を治療することをおすすめします。
単純性いびきを改善するには、睡眠時の体勢が大変重要です。
睡眠時にゆるんだ筋肉や贅肉が引力によって沈み、のどの空気の通り道が狭くなることでいびきをかきやすくなります。仰向けで寝るよりは、横向けやうつぶせなど、のどを塞ぐことがない体勢で眠ればいびきを改善できる可能性が高くなります。横向きの体勢を維持するために、抱き枕を使用することもいびきの予防に有効です。
いびきを医療機関で治療したいと考えるならば、いびき専門外来を標榜しているクリニックが最も良いでしょう。まずは近くの耳鼻咽喉科を受診して原因を確かめた後に、必要に応じて専門医を紹介してもらうという方法でもOKです。
特に睡眠時無呼吸症候群を伴ういびきであれば、その後の合併症のリスクも増えるので専門外来をできるだけ早く受診する必要があります。
医療機関でいびきを治す場合は、細くなっている空気の通り道を太くすることでいびきを解消するという方法を採用します。外科的な処置が必要となる場合もあれば、市販の装具を用いていびきを軽減するケースもあります。
いびきと同時に、副鼻腔炎などの疾患を併発している場合もあるでしょう。
急性副鼻腔炎であれば薬物療法で、慢性副鼻腔炎であれば内視鏡下副鼻腔手術、鼻内整復術などの外科処置を行います。
これらの手術の場合、以前は3週間ほどの入院を必要としましたが、最近では日帰り~3日間程度の入院で済むようです。粘膜肥厚を原因とする鼻閉がいびきの原因であれば粘膜下下鼻甲介切除術などを行いますが、これも最近では日帰り~3日間程度の入院で済むようになりました。
いびきの原因によって、治し方は異なります。生活習慣の見直しなどで改善できる場合もあれば、医療機関での治療がベターな場合も。医療機関で治療する場合は、一人ひとり状態が異なりますので、まずは医師とじっくり相談するようにしましょう。
この記事の監修
聖マリアンナ医科大学 特任教授
日本臨床薬理学会 認定薬剤師/日本臨床薬理学会 指導薬剤師
井上 肇(いのうえ はじめ)
星薬科大学薬学部卒、同大学院薬学研究科修了。聖マリアンナ医科大学・形成外科学教室内幹細胞再生医学(アンファー寄附)講座 特任教授及び講座代表。幹細胞を用いた再生医療研究、毛髪再生研究、食育からの生活習慣病の予防医学的研究、アンチエイジング研究を展開している。
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