聖マリアンナ医科大学 特任教授
井上 肇(いのうえ はじめ)
露出する機会が減るため、ついおろそかになってしまうのが、寒い季節のボディケア。
お手入れ不足と乾燥が重なり、気づいたら脚のスネは粉をふいたようにカサカサ、かかとはカチカチになってひび割れ……そんなトラブルを招いてしまうことも。
放っておくと皮膚のバリア機能が低下し、深刻な状況になることもあるため、早めの対処と予防が大切です。
そこで、乾燥する季節のフット&レッグケアはどのような点に注意すれば良いか、聖マリアンナ医科大学 特任教授の井上肇先生に解説していただきました。
かかとのひび割れは、皮膚の乾燥が原因です。それにはいくつかの要因があり、症状を悪化させます。
人間の肌は、新陳代謝により定期的にターンオーバー(生まれ変わり)が起こり、古い皮膚は角質化してはがれ落ちていきます。しかし、加齢やストレスによって肌の新陳代謝が滞ると、ターンオーバーのサイクルが落ちて角質が溜まるようになり、硬くなってひび割れが起きやすくなります。
かかとのひび割れは、肌の乾燥が1番の原因です。それを防ぐのは肌のうるおいですが、それには油分が必要となります。しかし足裏には、もともと皮脂腺がありません。そのため、日頃からクリームなどで保湿をしなければ、足裏は乾燥から守れないのです。
立ったり歩いたりしている時、全体重を支えているのは足裏のかかとです。つまりかかとは、体の中でも特に圧力がかかりやすい部位といえます。その圧に対応するために、足裏は角質を作って厚くなります。特に女性はヒールを履くなどして足裏に圧がかかりやすく、よりかかとがひび割れしやすくなります。
スネの粉ふきもかかとのひび割れも表皮の角質層で起きたトラブルで、前者は角質層の剥がれ、後者は角質層の蓄積が原因。秋から冬は空気が乾燥するのに伴って角質層の水分が蒸発してしまい、必要な水分量を維持できなくなってしまった結果。いずれも「保湿」することがお手入れの大原則です。
まずは、トラブルを起こさないための予防法から。井上教授によると、「加齢に伴ってどうしても皮膚は乾燥しがち。日頃から乾燥対策に気を配り、スキンケアをこまめにおこなうことが重要」とのこと。
とくに注意が必要なのが入浴時とその後。「入浴し、肌がお湯で湿った状態になると、何となく潤った錯覚にとらわれがち。ただ、入浴時に用いるボディシャンプーなどで、皮脂もかなり除去されているため、入浴後の乾燥はよりいっそう角質層にダメージを与えます」。乾燥しやすい方は、まず、下記の3点を守りましょう。
入浴時にからだを洗う場合は、ナイロンなど硬い繊維のタオルを使わず、綿のタオル(できれば手ぬぐい)などを使用すること。石けんをきめ細かく泡立て、その泡で皮膚の汚れを落とすイメージで優しく洗いましょう。タオルを使わず、手のひらで洗うだけでもOK。
入浴後、タオルで皮膚をこするように拭く行為は、ふやけて柔らかくなった角質層を一気に傷つけることに。タオルを軽く押し付けて水分を吸わせるか、入浴後、速やかにバスローブを着て肌の水分を除くようにするのがベター。
まだ肌に水分が残っているかな? くらいの状況で、保湿クリームなどを用いてケアする癖をつけること。入浴後、放置したままにしておくと、より肌の乾燥を招きます。そこで気になるのは、風呂上がりに使用する保湿クリーム。これらは何を基準に選べばいいのでしょうか。
乾燥肌には「尿素配合軟膏やクリームが一番効果的」なのだそうです。尿素による保湿は、皮下の水分を角質層に持ち上げて保持し、乾燥して硬化した角質を軟化させる働きがあります。市販されているものには、尿素の含有濃度が高いものや低いもの、主成分の尿素に清涼感を与える成分などを配合した尿素配合軟膏などがあります。いくつか試し、自身の皮膚に最も合った濃度を選びましょう。
また、尿素の他にヒルドイド軟膏などと呼ばれる製剤もありますが、その効果は尿素配合軟膏に比べると弱い傾向にあります。軟膏基材として普遍的に用いられるワセリンなどは効果的。肌が弱く、尿素が合わないと感じる方は、こちらを試してみてください。
それでもできてしまったかかとのひび割れは、どのように対処すればよいのでしょうか。
治療のポイントは、古い角質の除去と保湿。「ヤスリなどで硬くなった角質を削り落とす方法が一般的に知られていますが、慣れない人がおこなうと削り過ぎてしまいます。角質層はそれなりの意味があって存在するので、必要以上の除去は禁物。多少時間がかかっても、角質の自然脱落を促進する方法が好ましい」。
Step1
入浴後の角質が軟化しているときに、尿素配合クリームや軟膏、もしくはハンドクリームでも良いので、表面にたっぷりと塗り込む。
Step2
食品用ラップ材でしっかり覆い、靴下を履いた状態で就寝する。これを1日1回×数日繰り返し、きれいな角質層に生まれ変わらせる。
そもそもかかとのひび割れは、乾燥と皮膚への慢性的な機械的刺激が原因です。
かかとは、全身の体重が乗って常にストレスがかかっているところ。皮膚はそれだけダメージを受けやすいので、自身を守るために角質層を増やします。
通常は、古い角質を自然に脱落させ、一定の角質層の厚さを維持してバランスを保つのですが、パンプスやブーツを長時間履いたり、かかとに負担
のかかる歩き方をしたりすると、角質の肥厚と硬化が起こることに。
さらに乾燥が加わることで、長時間放置された鏡餅のようにひびが入ってしまうのです。
かかとのひび割れは、歩くのも困難になるほどつらいもの。そうならないためには、これまで述べたような日頃の保湿が重要ですが、それ以上に、かかとに負担のかかる靴を避けること。通勤のときだけでも、スニーカーなどクッション性の良い靴を履くというのもありです。
最後に、このかかとのひび割れについてもうひとつ注意したいこと。もし、秋から冬の乾燥した時期が過ぎ、夏でも同様の症状が継続するのであれば、水虫の可能性があります。心配な場合は、まず皮膚科を受診してみましょう。
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https://www.angfa.jp/karada-aging/practice/mizumushi/
(文・川原好恵)
この記事の監修
聖マリアンナ医科大学 特任教授
日本臨床薬理学会 認定薬剤師/日本臨床薬理学会 指導薬剤師
井上 肇(いのうえ はじめ)
星薬科大学薬学部卒、同大学院薬学研究科修了。聖マリアンナ医科大学・形成外科学教室内幹細胞再生医学(アンファー寄附)講座 特任教授及び講座代表。幹細胞を用いた再生医療研究、毛髪再生研究、食育からの生活習慣病の予防医学的研究、アンチエイジング研究を展開している。
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