聖マリアンナ医科大学 特任教授
井上 肇(いのうえ はじめ)
「臭い」「匂い」といえばワキや頭皮などの加齢臭をイメージする人が多い中、あなどれないのが口臭問題。自分はもちろん、まわりの人にも気を遣わせてしまう口臭は、今や現代病のひとつといわれています。口臭といってもいろいろな原因がありますが、今回注目したのは「息」。これらは現代病のひとつともいわれていますが、每日の生活で予防できる方法はないのでしょうか?
聖マリアンナ医科大学 特任教授の井上肇先生にうかがいました。
日本口腔外科学会では、以下のように口臭の原因を5つに定義づけしています。
最も問題になるのは、1番の生理的口臭と2番の飲食物・嗜好品による口臭ではないでしょうか? まずは「なぜ、口が臭くなるのか?」、口腔内環境について考えてみましょう。
口の中には細菌がたくさん存在しています。口腔内ケアをしなければ当たり前ですが、口腔内には雑菌が繁殖していきます。
睡眠時は唾液の分泌が長時間低下します。ほかには、緊張すると唾液の分泌も低下するので、口腔内に増殖した雑菌を唾液が洗い流せません。そのために、増殖した細菌が分泌する揮発性の硫黄化合物が口臭となって現れます。この揮発性硫黄化合物を「Volatile Sulfur Compounds(VSC)」と呼んでいます。簡単にいうと、おならや生ごみなどに含まれている「におい」の成分。生理的口臭というのは普段の生活習慣や特性において発生する口臭のことをさします。
また、ニンニクやタバコといったにおいのきつい食品類、お酒が代謝されたアセトアルデヒドのにおいなど、食品類によっても口臭は出現します。これが2番の飲食物・嗜好品による口臭です。
一方で、糖尿病や肝機能障害そして歯周病などによる病的な口臭もあれば、ストレスによる口臭というケースも。ストレスによる緊張から唾液の分泌が抑制され、生理的口臭として出現します。社会全体にストレスが増加している傾向にあるのが現代社会。今後、ストレス口臭が増えることも想像できます。さらに懸念するのは、こういった経験が心理的に影響して、自分自身で「口臭がする」と思い込む、心理的口臭という症状もあります。
ちなみに、「口臭は加齢が原因なの?」という質問を多く受けるのですが、加齢臭のみならず、女性のホルモンバランスの変化、成長にともなう各々の時期に特有の口臭が出ることもあります。
呼気は、体内の二酸化炭素を肺胞を介して、体外に排泄しています。この時に揮発性の体内成分は同時に排泄されます。お酒を飲んだ後に息が酒臭いというのは、肝臓で代謝された揮発性のアセトアルデヒドが、呼気となって排泄されるので口臭の大きな原因になります。
腸内細菌の(悪玉菌が増える)異常は、においのきつい排便の原因となり、おならが臭くなりますが、同時にこのおならのガス成分が体内循環して呼気成分とし、排泄されて口臭の原因になったり、体臭の原因にもなります。
もう少し詳しく言うと、腸内で悪玉菌によってつくり出された腸内ガス成分が、行き場を失って腸粘膜から血中に吸収され、(これが血液循環によって全身に分布するわけですが)肺に分布すれば、呼気と一緒に排泄されて口臭の原因になりますし、汗腺などから汗に混じって分泌されれば体臭の原因にもなります。要するに、「腐敗したうんち」のにおいがおならだけでなく、体内を巡って体臭として、あるいは口臭として排泄されるのです。
病的な口臭はその原因疾患を治療することが先決です。専門医に診てもらい、正しい治療をおこなってください。
飲食物による口臭というのは一過性のものですから、連日連夜毎日欠かさずにおいの強い食材を食べていなければすぐに消えるので、治療の必要はないでしょう。大半の場合、生理的口臭が強くなることが悩みのタネのはずです。
もし、年齢的に歯周病などの病気にかかっていたら、歯周病ケアが最も重要でしょう。そうでなければ、唾液の分泌を促すことが重要です。
水分をこまめに取る
ガムを噛む
歯磨きを(オーラルケア)をしっかりおこなう
上記のほかにも、善玉菌を増やせる乳酸菌を多く含む食材などの摂取が有効です。たとえば、ヨーグルトや牛乳などが挙げられます。これは体臭のケアにも有用です。
同時に、ニンニク、ニラ、パクチーなどの香りの強い野菜や納豆、内臓系の食材はその後の TPOに合わせて前日から控えることも重要です。
この記事の監修
聖マリアンナ医科大学 特任教授
日本臨床薬理学会 認定薬剤師/日本臨床薬理学会 指導薬剤師
井上 肇(いのうえ はじめ)
星薬科大学薬学部卒、同大学院薬学研究科修了。聖マリアンナ医科大学・形成外科学教室内幹細胞再生医学(アンファー寄附)講座 特任教授及び講座代表。幹細胞を用いた再生医療研究、毛髪再生研究、食育からの生活習慣病の予防医学的研究、アンチエイジング研究を展開している。
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