聖マリアンナ医科大学 特任教授
井上 肇(いのうえ はじめ)
なんだか新聞の字が読みにくくなってきた、パソコンの文字が見えにくく、目が疲れやすい、そんな症状が続いたら、目の老化が始まっている疑いがあります。ちょっと薄暗い場所に入ると本や地図がとても読みづらい、いつもかけているメガネなのに、長時間使用しているといつも以上に目が疲れてしまう、新聞などを読むときに目からちょっと離さないと字が良く見えないなどの症状がある場合は、単なる疲れ目ではなく、老眼のサインかもしれません。
カメラは、レンズが外部から入ってくる光を集め、ピントを調整して写真を撮ります。同じように、眼の中にもカメラのレンズと同じ役割をする「水晶体」があり、周囲の筋肉(毛様筋)が動いて水晶体の厚みを変え、ピントを調整します。
通常、人間の眼は遠くを見るときは毛様筋がゆるんで水晶体が薄く、近くを見るときは縮んで水晶体が厚くなり、ピントを調整しています。
しかし加齢に伴って毛様筋が衰え、縮む力が弱くなります。また水晶体自体も硬くなり、厚さの調整がしづらくなります。そのため、近くのものを見るときにピントが合わせづらくなって、ものがぼやけてしまうのです。
実は、水晶体の柔軟性は20代から失われ始めるといわれています。しかし、一般的には、生活に支障がでる30cm手前のものが見えなくなる状態を老眼と呼んでおり、50~60歳ころからそういった症状が現れ始めます。最近はパソコンの画面を長時間見つめるなど、目を酷使し続けることにより眼球の老化が早まり、老眼の症状が早くからあらわれる人もいます。
体調不良も引き起こす老眼が進行すると、眼精疲労になりやすくなったり、頑固な頭痛やめまいを引き起こすことがあります。
まずは、自分の老眼度をチェックしてみましょう!チェック方法は簡単。人差し指を目の前に出して、少しずつ顔から離していき、指紋がはっきり見えるところでとめて下さい。指が顔から30cm以上離れていたら、老眼が始まっている可能性ありです。
老眼のケア対策(1)スマホによる目の酷使をやめる
スマホやパソコンをずっと見ていると、眼球の疲労が蓄積され、また瞬き不足によるドライアイの心配もあります。10分に1回は目をスマホから離し、遠くを見つめるようにしましょう。
老眼のケア対策(2)温熱ケアを取り入れる
40度前後に軽く温めた蒸しタオルを目の上に乗せ、10分ほど温めると目の周りの血流が促進され、目の疲労回復に役立ちます。
老眼のケア対策(3)適切な目薬を使用する
老眼につながる疲れ目には、点眼薬が有効です。スーッとするだけの安価なものではなく、ネオスチグミンメチル硫酸塩やビタミンB12といった、目の疲労回復や機能改善に好適な成分が入ったものを選びましょう。ただし使い過ぎには注意しましょう。
老眼のケア対策(4)目に良い生活習慣や食事を
生活習慣の乱れは体に疲労を蓄積させ、ひいては老眼にも繋がります。また眼を健康に保つには食生活も重要で、ルテインやアスタキサンチン、ビタミンB1、ビタミンCといった目の機能に有用な栄養素が多く入った食べ物を多く摂取しましょう。
老眼は治らないと思われがちですが、最近では老眼を治療する手術が発達してきています。 そのうちのいくつかをご紹介します。
[1] アキュフォーカスリング
レーザーで角膜にポケットを作り、そこに特殊なレンズを挿入します。レンズが眼の中に入る光量を調節することで、近くが見やすくなります。手術は通常効き目ではない方の眼のみおこないます。手術時間はほんの10分程度です。
[2] CK(Conductive Keratoplasty)
心臓や歯の手術で使用される「高周波」を角膜周辺部に照射し、角膜の形を整えます。アメリカのRefractec社が開発したこの技術は、2002年4月に遠視治療、2004年3月には老視治療に対して、FDAの認可を受けています。また、CKによる遠視や老眼の治療は現在までに、世界で10万件以上行われており、良好な結果が報告されています。こちらも手術時間はほんの10分程度です。
[3] モノビジョンレーシック
通常のレーシックと同じように、レーザーを用いて角膜の形を整えていきます。その際、片方の目は遠くを見るように調整し、もう片方の目は近くが見えるように少し近視に調整します。
この他にも、老眼(老視)矯正レーシックや遠近両用IOLなど、さまざまな技術が開発されていますから、興味のある方は一度眼科を訪ねてみるとよいでしょう。
この記事の監修
聖マリアンナ医科大学 特任教授
日本臨床薬理学会 認定薬剤師/日本臨床薬理学会 指導薬剤師
井上 肇(いのうえ はじめ)
星薬科大学薬学部卒、同大学院薬学研究科修了。聖マリアンナ医科大学・形成外科学教室内幹細胞再生医学(アンファー寄附)講座 特任教授及び講座代表。幹細胞を用いた再生医療研究、毛髪再生研究、食育からの生活習慣病の予防医学的研究、アンチエイジング研究を展開している。
よくある質問