聖マリアンナ医科大学 特任教授
井上 肇(いのうえ はじめ)
車のクラクションの音・デジタル体温計の音・携帯電話の音や、女性や子供の声が聞き取りにくい。言葉を聞き間違えることが多くなった、などの症状が現れたら老人性難聴、耳のエイジングサインかもしれません。
聴力が低下すると特に、 ‘さ行’‘は行’‘か行’などの子音が聞き取りづらくなって、「七時(しちじ)」を「一時(いちじ)」と聞き間違えたりすることが増えてきます。
私達は、耳の中にある「蝸牛(かぎゅう)」という器官で音を感知しています。蝸牛を構成する細胞には毛が生えていて(有毛細胞)、そこに空気の振動が伝わり、毛が振動することで音を認識します。
蝸牛は、かたつむりのような渦巻状の形をしていて、その入り口付近の毛で高音を、奥にある毛で低音を認識します。入り口付近の有毛細胞は、自分の担当ではない低音の振動にもゆらされるため、奥にある有毛細胞よりも早く老化してしまいます。そのため、歳をとると蝸牛の入り口付近の有毛細胞が減ってしまい、高音が聞き取りづらくなくなってしまうのです。
聴力の低下は40代から徐々に現れ始め、50代で老人性難聴を発症するケースもあります。
私達は、外界の情報を知る為に5感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)を利用します。この内全体の情報の80%を視覚に依存し、残りの20%は聴覚、嗅覚、味覚、触覚に依存します。
ところが、この残りの20%の半分を占めるのが、聴覚です。たかが10%と思いがちですが、コミュニケーションが困難になる事から認知症発症にも影響しているとも考えられています。認知症高齢者の多くは聴力が落ちていることから、難聴と認知症障害にはなんらかの関係があるのではないかと各国で研究が進められています。
最近、iPodや携帯電話でいつでも音楽を楽しめるようになりましたが、それに伴い、「ヘッドホン難聴」という新たな疾患が急増しているそうです。これは、ヘッドホンを使って大音量で長時間音楽を聴き続けることで、耳の器官や神経に負担がかかり、難聴になってしまうというもの。米国での調査によると、10代の若者の5人に1人は軽度の難聴になっているそうです。自分の好きな音楽を大音量で楽しみたい気持ちは分かりますが、将来のことを考え、耳をいたわった音量で音楽を楽しむようにしましょう。
食生活で難聴の予防に役立つのは、傷ついた末梢神経の修復を助けるビタミンB12です。ビタミンB12は、レバー、あさり、しじみ、さんま等に多く含まれていますから、これらの食材を積極的にとりましょう。
症状が進行しているようなら、聞こえないことに目を背けず、専門医の診断を受けましょう。必要であれば補聴器をつけるなどの対策をとって外部からの刺激を遮断しないようにしましょう。
この記事の監修
聖マリアンナ医科大学 特任教授
日本臨床薬理学会 認定薬剤師/日本臨床薬理学会 指導薬剤師
井上 肇(いのうえ はじめ)
星薬科大学薬学部卒、同大学院薬学研究科修了。聖マリアンナ医科大学・形成外科学教室内幹細胞再生医学(アンファー寄附)講座 特任教授及び講座代表。幹細胞を用いた再生医療研究、毛髪再生研究、食育からの生活習慣病の予防医学的研究、アンチエイジング研究を展開している。
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