聖マリアンナ医科大学 特任教授
井上 肇(いのうえ はじめ)
両耳が突然キーンと金属音を立てる、といった症状がある場合、耳の中にある「蝸牛(かぎゅう)」という器官の感覚細胞が何らかの原因で障害されていたり、老化によって血行が減少している可能性があります。
人口の10%から20%の人が耳鳴りを感じているといわれており、特に65歳以上の人では、30%近い人が耳鳴りを経験したことがあると報告されています。また、歳をとって耳鳴りがする場合、70~80%の人で難聴を伴います。
その場合、耳鳴りは両側の耳に同時に起こる傾向があります
「聞こえ」のメカニズムは、外部から入ってきた音の振動が、外耳から中耳を経て内耳の「蝸牛(かぎゅう)」という部位で電気信号に変換され、神経で大脳に送られて「音」として認識されます。
耳鳴り「耳鳴」は、このうち内耳でトラブルが起きて発生すると考えられています。耳鳴りは難聴などと併発することが非常に多いことも特徴です。
耳鳴りにはさまざまな原因がありますが、耳鳴りを訴える人の大半は難聴を伴っており、メニエール病や突発性難聴といった耳の病気を原因とすることもあります。ストレス性の耳鳴りを発症する人もいます。
また、耳に異常がなくても、脳機能の障害や糖尿病などの生活習慣病、不眠症といった疾患でも耳鳴りを発症します。実の処、耳鳴りのメカニズムは、まだ未解明な部分が多いのが現状です。
先ほども説明した通り、空気を伝わる音波は、鼓膜を震わすことで、その振動に変化させこの振動を耳小骨が増幅して、内耳の「蝸牛」はこの振動を電気信号に変えて、大脳が音として感知します。蝸牛の細胞には毛が生えていて(有毛細胞)、毛が振動することで電気信号に変化させます。 高音を担当する有毛細胞に異常が生じると、本来は空気振動がないのに脳に信号を発してしまい、キーンという金属音や、電子音に似た不快な音、耳鳴りが起こります。有毛細胞の機能は加齢により衰えるため、耳鳴りを訴える高齢者の大部分で、難聴を伴う傾向があります。
Rubinsteinが1992年に行なった耳鳴りの自然経過に関する調査によると、耳鳴りを訴える70歳、75歳、79歳の女性において、25%では苦痛度が増悪し、58%では改善が見られ、17%は不変であったと報告されています。また、男性では8%が悪化し39%が軽快し、53%は不変であったそうです。
この結果を見る限り、耳鳴りは時間が経過すると改善する傾向があるようです。ただし、症状が悪化した場合、夜眠れなくなる程のストレスへと発展する場合もありますから、早めに病院に行ってみることをおすすめします。また、物が二重に見えたり、激しい頭痛やしびれ、舌のもつれなどの症状がある場合は、脳梗塞や脳出血の前兆の場合もあるので要注意。
耳のエイジングを加速させない事が大切です。気を付けるべき事として、イヤホンで大音量の音楽を聴かない事です。イヤホンなどで音楽を聴くと、耳から入った音波が内耳にある有毛細胞に到達しますが、この際ボリュームが大きすぎると、有毛細胞が損傷を受け、回復できなくなってしまうのです。これを「ヘッドホン難聴」と呼びます。
米国での調査によると、iPod などのオーディオ機器の普及に伴い、若い世代での難聴が急増しているそうです。自分の好きな音楽を大音量で楽しみたい気持ちは分かりますが、将来のことを考え、耳をいたわった音量で音楽を楽しむようにしましょう。
ストレスを感じて自律神経のバランスが崩れると、耳鳴りがでたり悪化したりすることがあります。毎日の生活でストレスを溜めないために、意識してリラックスできる時間を作るようにしましょう。また、耳鳴りがおきたら、深呼吸をして肩の力を抜いてみてください。
この記事の監修
聖マリアンナ医科大学 特任教授
日本臨床薬理学会 認定薬剤師/日本臨床薬理学会 指導薬剤師
井上 肇(いのうえ はじめ)
星薬科大学薬学部卒、同大学院薬学研究科修了。聖マリアンナ医科大学・形成外科学教室内幹細胞再生医学(アンファー寄附)講座 特任教授及び講座代表。幹細胞を用いた再生医療研究、毛髪再生研究、食育からの生活習慣病の予防医学的研究、アンチエイジング研究を展開している。
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