慶応義塾大学医学部耳鼻嗚咽科専任講師
神崎 晶(かんざき しょう)
耳の奥がかゆかったりムズムズした感じがあったりすると、耳かきや綿棒で耳垢をとりたくなってしまいますよね。世の中には、どうしても気になって毎日のように耳垢をとっているという人もいるでしょう。
多くの人が日常的に行っている耳かきですが、
「耳かきをしすぎて耳の穴が痛くなってしまった」
「自分ではきちんと耳垢がとれているのかわからない」
「子どもの耳かきが上手くできない」
などのお悩みもよく耳にします。
そこで今回は慶応義塾大学の神崎晶先生に、耳垢の上手なとり方や注意点をお聞きしました。
「耳鼻科の医師として多くの患者さんを診てきましたが、医師の目から見ると、ほとんどの人が耳かきを“やりすぎている”という印象を受けます。耳かきをしすぎると、外耳炎などのトラブルを引き起こす可能性もあるので注意していただきたいです」(神崎先生)
神崎先生によると、人間の耳垢は、わざわざとらなくても自然と外に排出される仕組みになっているのだそうです。食事をしたり会話をしたりするなど、顎を動かす動作でも、外耳道と呼ばれる道から自然に外に出ていくのです。
逆に自分で耳かきをすることで、自然と外に出るはずの耳垢を中に押し込んでしまっているケースもあるといいます。
「耳垢を中に押し込みすぎると、耳の穴がふさがって耳が聞こえにくくなることもあります。押し込まれた耳垢を耳鼻科でとり除くこともできますが、何層にもなっている耳垢をとり除くのは非常に大変ですし、とっている最中に痛みを感じることもあります。溜まった耳垢に細菌が繁殖して、炎症を起こしてしまう可能性もあるので注意しましょう」(神崎先生)
「耳垢をとる頻度は数ヵ月に一度で十分」と話す神崎先生。 耳の穴の中を顕微鏡などで見ながらとるのが理想ですが、なかなかご家庭では実践が難しいでしょう。そこでベストな方法は、耳鼻科で専門のドクターに耳垢をとってもらうことだそうです。
「耳鼻科では保険診療内で耳垢をとることができます。ケースバイケースではありますが、難しい耳垢でなければ費用は両耳で数百円、数分あればとれてしまいます。顕微鏡で耳の穴を拡大して見ながら、吸い取ったりかきとったりします」(神崎先生)
普段から頻繁に耳かきをしているという患者さんの耳の穴に、数年分と思われる耳垢がたまっていることもあったそうです。それだけ、自分で耳垢をとるのは簡単なようで難しいことなのですね。
親御さんが小さいお子さんの耳垢をとってあげるという家庭も多いでしょう。しかし、これも実は危険な行為だと神崎先生は話します。
「お母さんがお子さんの耳かきをしているときに、耳かき棒が鼓膜に刺さったり鼓膜を貫通して耳の骨にぶつかったりしてしまい、お子さんが難聴になってしまったという症例もゼロではありません」(神崎先生)
どんなにお母さんが注意していても、お子さんが急に動いてしまって事故につながることもあります。
また、子どもが痛がっているのに「耳垢を放置しているのは不潔だからとらなきゃダメ」と、無理に耳垢をとろうとしたくなるかもしれません。しかしお子さんが痛がっているということは、何かしら方法が間違っている可能性があります。そんなときは決して無理強いをしてはいけないということです。
お子さんの耳垢も、大人同様に耳鼻科でとり除いてもらうのがベストなようです。
水やオイルを使用して耳垢を柔らかくすると、耳垢がとりやすくなるという説があります。しかし実際には、オイルや水を使用することで耳垢がスポンジのように膨張して、耳の穴をふさいでしまう危険性があるそうです。
「耳の穴が耳垢でふさがってしまうと、耳が聞こえにくくなる可能性がありますし、耳垢もとりにくくなりますよ。乾燥している耳垢であれば自然にポロリと剥がれ落ちるのに、水分を含むことで穴表面の皮膚に耳垢が付着してしまうのです。世の中には、乾いた耳垢ではなく、ねっとりした耳垢が出る体質の人もいらっしゃいますよね。ねっとりした耳垢の方が、皮膚に付着しやすいので溜まりやすいという特徴があります」(神崎先生)
医療機関では耳垢をやわらかくする耳垢水(じこうすい)という薬品を使用して耳垢をとることもあるそうですが、耳垢水は一般的には市販されていません。市販のオイルや水を耳かきに使用するのは、オイルの種類を問わずおすすめできないそうです。オイルを直接耳に入れるのはもちろん、指や綿棒にオイルをつけて耳に入れるという方法も好ましくないとのこと。
また、耳かきに綿棒を使用する人もいるでしょう。しかし殺菌加工が施されていない市販の綿棒は先端に菌が付着している可能性があるため、綿棒で耳の穴をかきむしるのも望ましくないとのことです。
神崎先生によると「耳垢をとるのは数ヵ月に一度で大丈夫」とのことでしたが、どうしても耳の穴がムズムズして、かゆみを感じて我慢できないというときもあるでしょう。そんなときは、どのように対処すれば良いのでしょうか?
「耳の穴の奥まで綿棒や耳かき棒でかきむしらずに、表面をやさしくこするくらいなら大丈夫でしょう。しかし、そもそも耳の穴がかゆいときは、外耳炎など耳垢以外が原因になっている可能性があります。体質によっては、花粉やほこりが付着してかゆみを感じることもあります」(神崎先生)
強いかゆみや違和感がある場合は耳かきだけで解消しようとせずに、耳鼻科で相談してかゆみ止めの軟膏などを処方してもらうのが良いそうです。
耳垢を頻繁にとることが望ましくないのであれば、耳垢を発生させにくくする方法などはあるのでしょうか?
神崎先生によると「生活習慣や体質の改善などで耳垢の発生量が変化するものではない」とのことでした。
皮膚の新陳代謝によって、古い皮膚がはがれる際に発生する耳垢。耳垢が発生するのはごく当然のことなので、その量をコントロールする必要はないということです。
耳垢が大量に溜まって耳の穴をふさいだり、狭くしたりしてしまう病気です。難聴や耳の閉塞感、耳鳴りといった症状に加えて、まれに喉の違和感や胃の不快感が生じます。心当たりがある方は、耳鼻科で耳垢が溜まっていないかどうかチェックしてもらいましょう。
耳掃除をしすぎることで外耳道を保護してくれる耳垢までとってしまうと、皮膚が荒れて湿疹ができることがあります。強いかゆみや、分泌液が生じることも。耳鼻科で処方されたステロイド軟膏や抗生剤を使用して治療するのが一般的です。
耳の穴から鼓膜までの部分に炎症が起こる症状のことです。外耳炎になると耳に痛みを感じることがあり、耳を引っ張ったり押したりすると特に強く痛みを感じます。1~2日程度で症状がやわらぎ、もともと異常がなかったのであれば数日で自然治癒する場合もありますが、3日以上経っても改善が見られなければ耳鼻科を受診しましょう。放置して重篤な症状に見舞われることもまれにあるため注意が必要です。
普段何気なくとっている耳垢ですが、実は自分でとりすぎるのは危険だということがわかりました。「こまめに耳垢をとって清潔な状態を保つべき」という気持ちで、積極的に耳垢をとっていた方には意外な結果だったでしょうか。
時間に余裕のある方は、耳の穴の健康を守るためにも、耳垢とりを耳鼻科に任せてみても良いかもしれません。
この記事の監修
慶応義塾大学医学部耳鼻嗚咽科専任講師
医学博士/日本耳鼻咽喉科専門医
神崎 晶(かんざき しょう)
日本耳鼻咽喉科専門医、アレルギー学会専門医、補聴器適合判定医、補聴器相談医、騒音難聴認定医、めまい相談医。日本耳鼻咽喉科学会、日本耳科学会、日本聴覚医学会、アレルギー学会など多数の学会に所属。2013年、1st Global Otology Research Forum(GLORF)Award(第1回グローバル耳科研究フォーラム賞)、平成26年度日本医学会医学研究奨励賞、財団法人長寿科学振興財団 会長賞(平成19年度)
など受賞歴あり。
よくある質問