聖マリアンナ医科大学 特任教授
井上 肇(いのうえ はじめ)
そんなに多くの量のお酒を飲んではいないのに、若い頃よりもずっと早く酔ってしまう。翌日は頭がガンガンと痛み、吐き気や喉の渇きなど一日中ずっと不快感が続く…。
こんな変化を感じたら、それはエイジングに伴って長年の常習的飲酒がたたった肝機能障害かもしれません。
お酒の分解の流れ(1)胃と小腸から肝臓へ
人が摂取したお酒は、食道を経由して胃に運ばれます。そしてお酒のアルコール成分は約2割が胃で、約8割が小腸で吸収され、ほとんどが肝臓に運ばれます。
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お酒の分解の流れ(2)アルコールをアセトアルデヒドに分解
肝臓に取り込まれたアルコールは、ADHと呼ばれるアルコール脱水素酵素やミクロゾームエタノール酸化系のMEOSにより分解され、アセトアルデヒドになります。飲酒したら顔が赤くなったり、頭痛や吐き気などが起きるのは、アセトアルデヒドの毒性のせいです。
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お酒の分解の流れ(3)アセトアルデヒドから酢酸
アセトアルデヒドには毒性がありますが、代謝酵素のALDH2(2型アルデヒド脱水素酵素)の作用で、人体に害のない酢酸に分解されます。
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お酒の分解の流れ(4)酢酸から水・炭酸ガスへ
酢酸は、血液によって全身を巡ります。そして、水と二酸化炭素に分解され、最終的に汗や尿、呼気中に含まれて体の外へ排出されます。
アルコール自体の毒性はアセトアルデヒドに比べて低いといわれています。二日酔いは、肝臓でアルコールを分解する際にできる有害物質「アセトアルデヒド」が、体内で代謝しきれずに残ってしまうことが主な原因です。また、アルコール代謝時には大量の水分と糖質が消費されることから、脱水と低血糖に伴う頭痛を感じることがあるのです。
空腹時にいきなりお酒を飲んだり、ビタミン類やたんぱく質が不足した状態もNG! アルコールが肝臓に与える障害を助長してしまいます。加齢により代謝機能が落ちると、肝臓での分解機能が低下してしまうため、以前よりも酔いやすく、二日酔いになりやすくなるのです。
アルコールと聞くと、脂肪肝や肝硬変のような肝臓に関する病気をイメージする人が多いかと思いますが、飲みすぎは、実は肝臓だけでなく、ほとんどすべての臓器に障害をもたらします。お酒を飲む量が多ければ多いほど、病気発症のリスクは高まりますから、自分の体質や体調、年齢に合った量を把握して、くれぐれも飲みすぎないように気をつけましょう。一般的に、お酒に含まれているエチルアルコールで換算して、一生涯に700~1000kg程度飲酒するとアルコール性肝硬変に至るとされています。
●脳:アルコール依存症
●口腔・咽頭:口腔/ 咽頭がん
●食道:食道炎 / 食道がん
●肝臓:脂肪肝 / アルコール性肝炎 / アルコール性肝硬変
●心血管系:高血圧 / 不整脈
●胃:胃潰瘍 / 胃がん
●小腸:吸収障害 / 小腸炎
●生殖器:卵巣機能不全 / インポテンツ
●大腸:下痢 / 痔 / 大腸がん
アルコールが最終的に二酸化炭素と水まで分解されるのには、大量の水が使われます。また、ビールなどは利尿作用がありますから、体内の水分がどんどん体外に流れ出て行ってしまいます。すると、体が脱水症状を起こして、翌朝からひどい頭痛におそわれます。加齢に伴い、身体は脱水傾向になりやすいので、お酒を飲んだ就寝前には、必ずコップ1〜2杯の水やスポーツドリンクを摂取しましょう。この事だけで、就寝中の心血管・脳血管障害を引き起こすリスクが低下する事がしっかり研究されています。
また、お酒は末梢血管を拡張し、体温を低下させます。重症の場合、低体温症で生命に関わることもあります。一見皮膚が赤くて、ポカポカしているようでも、低体温を導きますので保温を忘れずに。
その他、タウリンを多く含む牡蠣やタンパク質を多く含む牛乳などもおススメです。特にアルコールの代謝に不可欠なビタミンB1は、しっかり服用することも忘れずに。
歳だからと諦めずに、自分の年齢や体質に合った量を知り、いつまでも楽しくお酒と付き合っていきたいものですね。
この記事の監修
聖マリアンナ医科大学 特任教授
日本臨床薬理学会 認定薬剤師/日本臨床薬理学会 指導薬剤師
井上 肇(いのうえ はじめ)
星薬科大学薬学部卒、同大学院薬学研究科修了。聖マリアンナ医科大学・形成外科学教室内幹細胞再生医学(アンファー寄附)講座 特任教授及び講座代表。幹細胞を用いた再生医療研究、毛髪再生研究、食育からの生活習慣病の予防医学的研究、アンチエイジング研究を展開している。
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