聖マリアンナ医科大学 特任教授
井上 肇(いのうえ はじめ)
若い頃は便秘症ではなかったのに、歳とともに便秘がちになってきたという人は、たくさんいます。これは、腸管の運動機能が低下したり、加齢に伴って腹筋が低下したりする事で発病します。
症状は、毎日排便がないだけではなく、あっても少ししか出ない、便が硬くてコロコロしている、排便に時間がかかる、残便感・膨満感がある、ガスがたまりオナラが出やすい等、すっきりと排便できない状態はすべて便秘です。
私達の大腸には、約500種類、100兆個にも及ぶ腸内細菌が住み着いています。そして、これらの菌の種類や数は、歳と共に変わることが知られています。特に、ビフィズス菌などの善玉菌は歳をとるごとにどんどん減り、反対にウェルシュ菌などの悪玉菌が増えていってしまいます。これらの悪玉菌は、タンパク質やアミノ酸などの食べ物のカスを腸で腐敗させてしまうため、腸内環境が悪化して、便秘が起こりやすくなります。
腸内環境が影響を与えるのが便秘だけだと思ったら大間違い!腸内環境は、私達の健康に様々な影響を及ぼしています。私たちは、食事によって身体に必要な栄養素を摂取したり、無意識のうちに身体に有害な病原菌を飲みこんだりしています。
腸には、そうやって体内に入ってきた物質が、私たちに必要なものか、有害なものかを見極める「腸管免疫」というシステムがあります。腸内環境が乱れて、この腸管免疫の働きが悪くなると、本来身体にとって害ではないものを有害だと判断してしまったり、反対に体に有害な菌をやっつけないままになってしまったりといった問題が生じます。そして、前者の場合であれば食品アレルギー、後者であれば下痢を伴った消化器感染症、といった健康への影響が現れます。
便秘の原因は、腹筋力の低下や精神的ストレスなど様々ですが、もし腸内環境の乱れが原因で便秘が起こっているなら、放っておくと病気にかかりやすい体質になってしまうかも!?
便秘の対策にはさまざまな方法があります。
日本人に多い便秘の1つに、弛緩性便秘があげられます。いくつかの原因が複合しますが、ご老人などは腹筋の低下に伴って腹圧をかけられないため、便を押し出せないことが原因の便秘です。この種の「弛緩性便秘」は、過度なダイエットなどで筋力が低下した女性にも認められます。
日頃の運動不足が起因しているので、腹筋を鍛えれば便秘解消が期待できます。筋トレはもちろん、ウオーキングや水泳、ヨガといった全身運動も効果的です。
水分を多めに摂取すれば、便が柔らかくなってお通じにプラスとなります。特に重要なのが、朝にコップ1杯分の水分を飲むこと。今まで寝ていた腸が活発に動き出します。水分は水やお茶、牛乳でもOK!
日頃、どんな食べ物を食べているかで、便秘のなりやすさは大きく変わります。腸の運動を活発化する食物繊維(こんにゃくや穀物)を意識的に多く摂取しましょう。特に豊富な繊維は、便の体積を増やすので、腸を刺激して便意を強め、排便を促します。
また、腸内環境を整えたいなら腸内の善玉菌を増やすことです。
腸内の善玉菌を増やすには、食習慣の改善が効果的。善玉菌自体を含む「プロバイオティクス」という食品と、善玉菌のえさとなる成分を含む「プレバイオティクス」という食品を摂るように心がけましょう。
プロバイオティクスには、ビヒィズス菌や乳酸菌を含んだ健康飲料の他、ヨーグルト・チーズ・納豆・味噌・キムチなどがあります。プレバイオティクスには、オリゴ糖を含むバナナやはちみつ、食物繊維を含むきな粉やほし柿などがあります。
さらに、プロバイオティクスとプレバイオティクスは、同時に摂取することでその効果がアップすると言われています。両方を含むような商品も多数市販されていますが、まずは手近なところで、バナナヨーグルトなんて試してみてはどうでしょう。
この記事の監修
聖マリアンナ医科大学 特任教授
日本臨床薬理学会 認定薬剤師/日本臨床薬理学会 指導薬剤師
井上 肇(いのうえ はじめ)
星薬科大学薬学部卒、同大学院薬学研究科修了。聖マリアンナ医科大学・形成外科学教室内幹細胞再生医学(アンファー寄附)講座 特任教授及び講座代表。幹細胞を用いた再生医療研究、毛髪再生研究、食育からの生活習慣病の予防医学的研究、アンチエイジング研究を展開している。
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