聖マリアンナ医科大学 特任教授
井上 肇(いのうえ はじめ)
「そよ風で足の産毛が揺れるだけでも痛い」という病状が語源となっている痛風。
その名の通り、些細なことで足指の関節などに激痛が伴う非常に厄介な病気です。
「いざとなったら鎮痛薬で抑えればいいか…」とあなどらず、正しい知識をもって発症を予防しましょう。
私たちは体内で産生されたプリン体や食事から摂取したプリン体を、分解して無毒なものに作り変えていますが、その際に作り出される物質が「尿酸」です。
この尿酸が増加すると、血液中を流れているときに関節に沈着してしまいます。その結果、関節に炎症が起きて痛みが生じるのが痛風です。
尿酸は非常に水に溶けにくく、析出されるとまるで針のような針状結晶という形になります。
これが関節周囲に刺さってしまうのですから、痛みが生じるのは当然です。
尿酸が血液中に異常に増加した状態を高尿酸血症と呼び、関節などに痛みなどの症状が発現すると痛風と診断されます。
痛風は遺伝するケースも多いため、家族に痛風患者がいれば、自身も痛風になる可能性があると考えておいた方が良いでしょう。
また、痛風は美食家やお酒好きに多いことでも知られています。
これは、美食家やお酒好きがプリン体を多く含む食材を摂取していることが原因です。
特に肉類、ビールや日本酒などのアルコール類には、プリン体が多く含まれています。
さらに、高度なストレスも痛風を悪化させる要因になるので注意しましょう。
プリン体は細胞中の核に含まれる核酸(遺伝子の構成原料)に由来するので、動物の組織や臓器を丸ごと食べるような食材に多く含まれています。
ラーメンは出汁をとるときに豚骨などの動物性タンパク質を用いているので、スープにプリン体が濃縮されている可能性があるので気をつけましょう。
焼酎やウイスキーなどの蒸留酒以外のお酒は、麦芽や胚芽の細胞成分が溶け込んでいるので要注意です。
また、これまではイクラが痛風の大敵といわれていましたが、実は白子などに比べるとプリン体含有量が少ないことがわかっています。
糖分は直接プリン体とは関係がないので、糖分の多い食品が痛風の原因になることはありません。
痛風を予防するには、プリン体の摂取量を「1日400mg」を目安にセーブするようにしましょう。
食品100g中のプリン体含有量が多い食品は、レバー類、白子、一部の魚介類(エビ、イワシ、カツオ)などが挙げられます。
参考:高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第2版(2012年追補ダイジェスト版)日本痛風・核酸代謝学会編集
野菜類には尿酸値を低下させる働きがあるといわれています。
痛風の原因となる尿酸は酸には溶けませんが、アルカリの状態になるとよく溶けるという性質があります。
尿をアルカリ質に近づけると、尿酸が容易に溶けて排泄が促進されます。
実は緑黄色野菜を中心とした食生活によって、弱酸性の尿をアルカリ質に近づけることができるのです。
痛風を予防する最適な食生活は、肉の量と同じ量の緑黄色野菜を必ず摂取すること。
例えば焼肉を食べるときには、サンチュを巻いて肉と一緒に食べるような工夫が重要です。
痛風は圧倒的に男性の発症が多いですが、それは女性の場合は女性ホルモンが尿酸を下げてくれることが理由です。
しかし、女性が痛風にならないというわけではありません。
過度のダイエットや閉経によって女性ホルモンの分泌量が極端に低下すると、男性と同様に痛風を発症する可能性があります。
水分摂取量が多い方は尿酸が溶けやすくなるため、積極的な水分摂取は痛風予防に効果的です。
特に、尿をアルカリ質に近づけることのできる飲み物を選ぶのがベスト。緑黄色野菜を配合した野菜ジュースなどがおすすめです。
プリン体含有量の多いアルコール類や、尿を酸性側に傾ける黒酢などは避けましょう。
痛風は筋トレで健康促進したり、マッサージでケアしたりすることで軽減できると考えている人もいるかもしれませんが、それはおすすめできません。
痛風は尿酸の針状結晶が関節内に沈殿して、物理的な刺激とそれに伴う白血球などの浸潤による炎症発作です。
マッサージなどで外から機械的な刺激を加えれば、余計に炎症が悪化してしまいます。
筋トレは筋肉の破壊と再生を繰り返しながら筋肉を増強させるものです。
筋肉細胞の破壊と再生により、核の中の核酸(遺伝子)も破壊後に再生されるため、それに伴い遺伝子の構成物質であるプリン体が放出されます。
その結果、血中尿酸値が上昇する可能性があります。
痛風を放置すると針状結晶が腎臓を攻撃して、痛風腎という病気を誘発します。痛風腎は大変恐ろしい病気で、最終的に人工透析を必要とします。
「痛風なんて鎮痛薬で抑えれば良し!我慢せずおいしいものをたくさん食べたい!」などと考えている方は要注意。
これからは、食生活にもっと配慮してみましょう。
この記事の監修
聖マリアンナ医科大学 特任教授
日本臨床薬理学会 認定薬剤師/日本臨床薬理学会 指導薬剤師
井上 肇(いのうえ はじめ)
星薬科大学薬学部卒、同大学院薬学研究科修了。聖マリアンナ医科大学・形成外科学教室内幹細胞再生医学(アンファー寄附)講座 特任教授及び講座代表。幹細胞を用いた再生医療研究、毛髪再生研究、食育からの生活習慣病の予防医学的研究、アンチエイジング研究を展開している。
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