医療法人社団ウェルエイジング 理事長/聖マリアンナ医科大学幹細胞再生医学寄附講座講師
小林 一広(こばやし かずひろ)
現代社会は、誰もがストレスを抱えて生きています。そんな社会で大きな問題となっているのが、うつ病や適応障害といった、メンタルに関係する病気です。これらの病気は、初期症状の早期発見がカギとなります。うつ病の概要や症状、治療法などを解説します。
私たちの脳の中では、情報伝達のためにたくさんの脳内ホルモン(神経伝達物質)が機能しています。その中でも、セロトニン・ノルアドレナリン・ドーパミンは「モノアミン」と総称され、メンタルに関係する脳内ホルモンです。うつ病は、モノアミンが減少するなどして、脳内のホルモンバランスが乱れることで起こることが多いといわれています。つまり、「こころの病気」というよりも「脳の病気」といった方が適切です。
うつ病は、日常生活のストレスをはじめ、身体的な病気、環境の変化など、さまざまな要因が複雑に絡まって発病すると考えられています。
ただし、うつ病にはまだ未解明なことが多いことも事実です。なかには、ストレスとは真逆のハッピーな経験がきっかけになり、うつ病を発症するケースも存在します。また、糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病を持つ人、がんや心筋梗塞、脳卒中などを患っている人は、うつ病を併発しやすいともいわれています。
人間、誰だって気分が落ち込むときはあります。いわゆる「抑うつ気分」という状態です。しかし多くの場合、自然に気分は元に戻るものです。それに対してうつ病は、気分の落ち込みなどの症状が長期間にわたって持続することが特徴です。
下記のような症状が数週間以上続く場合は、うつ病の初期症状かも知れません。
・気分が晴れず精神的な落ち込みが続く
・考え方が悲観的になる
・イライラや焦燥感が高くなる
・集中力や判断力が低下する
・好きなものへの関心が薄れる
・人付き合いがおっくうになる
・目がおかしい(目つき)
・仕事が手につかない、できない
・行動がおかしい など
・食欲がなくなる
・性的な関心が落ちる
・体重の減少がある
・胃腸の不調(胃もたれ、吐き気、下痢、便秘など)
・睡眠障害(眠りが浅い、中途覚醒、早朝覚醒など)
・体がだるく疲れやすい
・めまいや耳鳴りがある
・周囲の音に対して敏感になる など
うつ病の初期は、これらの一部が当てはまっているに過ぎないかも知れません。しかし、その状態を放置しておくと、多くの項目が当てはまるようになり、症状は重症化します。それに伴って、仕事ができない、おかしい行動を取るなど、日常生活に支障が出るような行動を頻発するようになります。そして、退職や休職を余儀なくされ、「生きているのが辛い」「死にたい」とさえ思うようになるのです。
うつ病は初期症状のうちに早期発見し、適切な治療を行うことが必要です。心身の負担が少ない初期症状のうちに対処すれば、治療も軽度のものになります。しかしそのタイミングを誤り、症状が重症化してしまうと、心身の負担はとても辛いものになり、治療も長期化するおそれがあるのです。
うつ病は、先ほども説明した通り、未解明の部分が多い病気です。その上で、うつ病になりやすい傾向のある人は、以下の特徴があるとされています。
・根が真面目で責任感が強い
・頼まれたことを断れず抱え込みやすい
・不安感が強い
・執着心が強い
・病気を持っている
・環境の変化に対応できない
・マイナス思考が強い
そのほか、以下の要因も要チェックです。
・女性(男性よりも2倍うつ病を発症しやすい)
・高齢者(更年期や社会的な孤立、認知症など)
・季節の変わり目に弱い(季節性うつ)
・生活習慣病の症状がある
・がんなどの病気を持っている
・循環気質(躁状態と抑うつ状態を繰り返し、双極性障害になりやすい)
うつ病とともに、こころの病気とされるものに「適応障害」があります。適応障害は、自分の置かれている環境に適応できず、落ち込んだりイライラしたりして精神的に不安定な状態になるものです。
うつ病と適応障害は、どちらも「うつ症状を発症する」という共通点はありますが、厳密には違うものです。
うつ病は、脳内のホルモンバランスが崩れることで起こります。その原因はストレスなどといわれますが、実際はさまざまな要素が複雑に作用している「脳の病気」です。そのため、うつ病は発症すると長期化し、ストレスから離れたところで症状がすぐ改善されるものではなく、何をしても楽しめません。そして、薬はよく効く傾向にあります。
適応障害は、その人の置かれている環境に適応できないことから起こります。原因は「職場の人間関係」「ママ友とのギクシャク」など、かなり明確です。そのため、ストレスから解放されるとすぐに気分は晴れます。また、うつ状態のようであっても、楽しいことは素直に楽しめます。そして、脳の病気ではないので、薬はあまり効きません。
適応障害になりやすい人の特徴は、良い言い方をすれば生真面目で几帳面。しかし一方で、神経質で融通が効かないという言い方もできます。それに加え、ストレス耐性が弱い、感受性が強く傷付きやすい、他人に相談するのが苦手で悩みを抱え込みやすい、などの傾向のある人も、適応障害に要注意です。
このように、うつ病と適応障害は似て非なるもので、当然、治療や対処法は異なります。
とはいえ、表面上はうつ病なのか、適応障害なのか、判断に困る場合もあります。そして、適応障害が長引いて精神的に不安定な状態が続くと、うつ病に移行してしまうこともあります。どちらにしろ、初期症状のうちに医師の適切な診察を受けることをお勧めします。
うつ病の治療法は、主に「十分な休養」「精神療法」と「薬物療法」の2つを並行して行うことになります。
いずれにしろ、「うつ病かな?」と心身の異変を感じたら、早めに医師に相談しましょう。
うつ病の多くは、精神的なストレスが直接的・間接的な原因となって起こります。ですから、心身の負荷を可能な限り取り去って、十分な休養を取り、リフレッシュさせることが大切です。
真面目な人ほど「休んではいられない」「他の人に迷惑がかかる」と考えてしまうものです。しかし、その思考法が、自分を追い詰めていることになります。
「頑張ろう」「自分を変えよう」というポジティブ思考は、時には「呪いの言葉」になります。「逃げる」ことは、必ずしも害悪ではないのです。
なお、症状自体は初期症状や軽症でも、十分な休養をとる場所が確保できない場合は、あえて入院するという選択肢もあります。
うつ病の人が医師やカウンセラーなどと面談し、話を聞いてもらう中でマインドの安定化をサポートします。いわゆるカウンセリングです。
精神療法には、不安やイライラ、怒りといった感情のコントロールから治療を図る「認知療法」と、社会での対人コミュニケーション改善から治療を図る「対人関係療法」などがあります。
うつ病の改善に効果がある抗うつ薬などのお薬を処方してもらいます。スタート時点では副作用を考慮して少量から服用を開始し、様子を見ながら少しずつ適切と思われる服用量に調整していきます。
軽症の場合は、SSRIまたはSNRIといわれる抗うつ薬が用いられます。しかし、1ヶ月ほど服用しても改善されない場合は、三環系抗うつ薬など別の抗うつ薬に変更します。
抗うつ薬の効果は、服用後すぐに現れるものではありません。2〜3週間のスパンで同じ薬を飲み続け、効果を判定します。もし頭痛や吐き気、めまいといった副作用がひどい場合は、薬を変えるなど治療法を再検討することになります。
なお、抗うつ薬に加え、抗不安薬や睡眠薬を適切に併用する場合もあります。
うつ病の治療は、大まかに「急性期」「継続期」「維持期」の3ステップに分かれます。
医師に診察を受けて治療を開始し、効果が目に見えて現れる期間です。治療を開始してから6〜12週間が目安です。
治療が進み、うつ病の症状がほぼなくなる期間です。かなり精神的に楽になります。急性期後、4〜9ヶ月が目安です。
継続期で得た安定した状態が、継続する期間です。継続期後、1年以上が経過すれば寛解期と見なされ、元の生活にかなり近い状態で過ごせるようになります。
うつ病の治療は、経過も人によってかなり異なります。一時的に良くなっても、自己判断で通院をやめたり服薬を中止したりすると、うつ病が再発する可能性は十分にあります。焦らず、気長に治療に取り組みましょう。
この記事の監修
医療法人社団ウェルエイジング 理事長/聖マリアンナ医科大学幹細胞再生医学寄附講座講師
精神保健指定医
小林 一広(こばやし かずひろ)
北里大学医学部卒業。
同大学病院にてメンタルヘルスを中心とする医療に従事する。
その後、医療社団法人ウェルエイジングを設立。
頭髪治療専門の城西クリニックを東京及び福岡に開院すると共に『AACクリニック銀座』を2006年3月に開院。
理事長として従事する傍ら、精神科医としての経験を生かし、積極的に心身両面からの治療に取組んでいる。
1991年3月 北里大学医学部 卒業
1991年6月 北里大学病院 精神神経科
1993年6月 埼玉県立精神保健総合センター医員
1995年5月 北里大学東病院 精神神経科 病棟医
1997年4月 北里大学 医学部精神神経科研究員
1999年7月 医療法人社団 城西クリニック開設
2014年6月 医療法人社団 Dクリニック東京 メンズ 開設
2021年1月 医療法人社団 Dクリニック東京 メンズの理事長に就任
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