聖マリアンナ医科大学 特任教授
井上 肇(いのうえ はじめ)
今年は気温差が激しい日が多く、例年に比べて花粉の量も多かったせいか、体調を崩す人が続出したといわれています。これに伴い、風邪をひいて咳に悩む人も少なくないようです。
ただし、風邪にしては咳が長引く、発熱や喉の痛みなどの風邪の症状がないのに咳だけが止まらない、そんな時は要注意。その症状には、意外な病気が潜んでいる可能性が考えられます。そんな注意するべき咳症状について、聖マリアンナ医科大学 特任教授・井上肇先生に教えていただきました。
まず始めに、咳の症状は、なぜ起きるのでしょうか?
井上先生によると、「咳は、気管の中に侵入した異物を体外に排泄する大変重要な生理反応です。従って、風邪の時の咳は気管や呼吸器の異物を吐き出そうとしているわけで、むやみに止めてはいけません」とのこと。
咳が少し出るからと、すぐに薬で止めようとするのは、実は完治のためには逆効果ということもあるのですね。ただし、「咳は、咳受容体を介して咳中枢が刺激されることによって生じる生理反応ですが、風邪でなくても受容体周囲で炎症を起こしたりしていると、咳が出たりします」ということも。
実は注意しなければならないのは、こちらのほう。咳の原因として、風邪以外に考えられるのは以下のような疾患です。
・ 気管支炎
・ 肺炎
・ 気管支喘息
・ 咳喘息
・ 肺ガン
・ 結核
ただ、「最近、よく咳が出るな」という程度の認識だったのに、実は肺ガンだったということもあるそう。それを考えると油断はできません。
長引く咳は、どんな病気のリスクが考えられるのでしょうか。
井上先生によると、微熱が続き、咳が止まらない場合は結核の可能性があるといいます。また、20歳以上の方で発熱などの目立った全身症状もないのに、1カ月以上咳が続く場合は肺ガンも考えられるそうです。
結核や肺ガンといった重病と咳が結びつくというのはショッキングですが、これらの病気が否定されてから、気管支喘息、咳喘息、花粉症などのアレルギーなどを原因と考えるのが、医学的な見地のようです。
「結核なんて、昔の病気」と思う方も多いかもしれませんが、「日本は先進国の中で最も結核が多い国」(井上先生)。感染症のひとつでもあるわけですから、決して現代人と無縁の病気ではないのですね。
とにかく、「たかが咳」と侮らない事が第一。咳の症状がなかなか鎮まらない場合は、呼吸器を扱っている内科や耳鼻咽喉科を受診しましょう。
さらに心配なのは、子どもの咳。子どもの咳は、先に述べた例以外にも、考えられる病気があり、井上先生は「予防接種が実施されるようになったため、流行することは少なくなりましたが、百日咳などの可能性もあります」と注意を喚起。
長引く咳が特徴なのは同じですが、飛沫感染で広がり、乳幼児が感染すると、命の危険性さえあるほど重症化する場合も。また、「犬吠様咳嗽(けんばいようがいそう)といって、犬のような吠え声の咳をするようになったら、クループといった急性疾患が考えられます」とも。これも重症になると呼吸困難のみならず生命に危険を伴うことがあるため、同じく要注意です。
咳は、それだけで体力を消耗しますし、夜の咳は睡眠不足となり、他の病気の併発につながることも。「一般的に発熱などの全身症状がない状態での連続する咳は、気管支喘息などを考えて早めに小児科を受診することをおすすめします」とのこと。井上先生のアドバイスをしっかり守りましょう。
(文・川原好恵)
この記事の監修
聖マリアンナ医科大学 特任教授
日本臨床薬理学会 認定薬剤師/日本臨床薬理学会 指導薬剤師
井上 肇(いのうえ はじめ)
星薬科大学薬学部卒、同大学院薬学研究科修了。聖マリアンナ医科大学・形成外科学教室内幹細胞再生医学(アンファー寄附)講座 特任教授及び講座代表。幹細胞を用いた再生医療研究、毛髪再生研究、食育からの生活習慣病の予防医学的研究、アンチエイジング研究を展開している。
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