聖マリアンナ医科大学 特任教授
井上 肇(いのうえ はじめ)
睡眠時無呼吸症候群というキーワードを、みなさん一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に呼吸が停止してしまう疾患で、英語名称の「Sleep Apnea Syndrome」の頭文字をとって「SAS」と呼ばれることもあります。
以前は睡眠時の無呼吸は「うるさいいびき」程度にしか考えられていませんでしたが、循環器系疾患をはじめとしたさまざまな疾患との関係が明らかになるにつれ、非常な重要な病態と認知されるようになりました。
私たちは睡眠中に、さまざまなことが原因で鼻やのどの空気の通り道が狭くなってしまうことがあります。
例えば
・睡眠中に筋肉が弛緩することで口腔内の舌が垂れ下がる
・鼻腔(鼻の穴の内側)が先天的に湾曲している
・花粉症やアレルギーで鼻腔内が腫れて鼻閉(鼻づまり)が起こっている
などの原因があげられます。
こうして鼻やのどの空気の通り道が狭くなることで、笛のように音が出る状況が「いびき」です。そしてこの空気の通り道がさらに狭くなり、ついに閉鎖されてしまうと、呼吸ができない状態、すなわち無呼吸を引き起こしてしまうのです。
睡眠時に10秒間以上の無呼吸が一晩で5回以上発生した場合は、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
中でも30回以上発生する患者さんは、大変重症な睡眠時無呼吸症候群だと判断されます。
重症患者の血液酸素飽和度を検査すると、睡眠時には酸素吸入が必要なレベルまで低酸素状態に陥っていることが分かっています。
「なぜいびきと同時に無呼吸が起こるのだろう?」と疑問に思っている人も多いかもしれません。しかし、実はいびきによって無呼吸が起こっているのではなく、無呼吸の状態になったことでいびきが発生しているのです。
体が無呼吸状態になると、この窒息状況を改善するためになんとか空気を吸い込もうとするのです。反射的に口腔内の舌が垂れ下がった状態を解消し、気管を開いて呼吸をしようと試みます。このときに、大きないびきが出るのです。
小児に睡眠中の無呼吸が起こる場合、その危険度は大人と同じですが、発生する原因に違いがあります。
小児のいびきや無呼吸は鼻・咽頭のリンパ節の先天的肥厚などの異常、まれに極度の肥満や先天的な小顎症によって発生することがあります。これらの症状はいびきや無呼吸につながるだけでなく、小児の発達に悪影響を及ぼす可能性もあるため速やかに治療することをおすすめします。
無呼吸が発生する原因は、基本的には睡眠時に気管が閉塞してしまうことが原因です。
睡眠時の筋肉弛緩による舌根沈下、肥満に伴うのどや首周囲の脂肪の沈着、また「顎が小さい」という日本人特有の骨格も睡眠時無呼吸症候群やいびきを引き起こします。
睡眠時の無呼吸を軽減するには、睡眠時の体位が非常に重要です。仰向けで寝るよりは、横向けやうつぶせなど、のどを塞ぐことがない体勢で眠るのがおすすめです。横向きの体勢を維持するために、抱き枕を使用しても良いでしょう。
睡眠時無呼吸症候群であるかどうかは、いびき外来や睡眠時無呼吸外来などの特殊診療科や耳鼻咽喉科で診断することができます。
まずは簡易モニターを装着して自宅で検査を行います。その検査結果だけでは不明確な場合は、ポリグラフという装置を用いて病院で2泊3日程度の検査を行い、総合的に判定します。
無呼吸の原因が明らかになれば、その原因に沿った治療を行いますが、治療法は
・装具の装着
・生活習慣の改善
・睡眠時の体位
・減酒
・減量
など実にさまざまです。
高齢者は心不全や脳梗塞などが原因で、中枢性睡眠時無呼吸症候群というより重症な無呼吸症候群に陥る可能性もありますので要注意です。
睡眠時の無呼吸は重篤な疾患につながっている可能性もありますので、放置しておくと危険です。睡眠時の無呼吸にはさまざまな原因があり、その原因によって対策も異なりますので、まずは専門医のもとで検査を受けてみてはいかがでしょうか。
この記事の監修
聖マリアンナ医科大学 特任教授
日本臨床薬理学会 認定薬剤師/日本臨床薬理学会 指導薬剤師
井上 肇(いのうえ はじめ)
星薬科大学薬学部卒、同大学院薬学研究科修了。聖マリアンナ医科大学・形成外科学教室内幹細胞再生医学(アンファー寄附)講座 特任教授及び講座代表。幹細胞を用いた再生医療研究、毛髪再生研究、食育からの生活習慣病の予防医学的研究、アンチエイジング研究を展開している。
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