メディカルチェックスタジオ東京銀座クリニック 院長
知久 正明(ちく・まさあき)
貧血が悪化するとめまいや動悸などの体調不良を感じることがありますが、なかには貧血による眠気に悩んでいる人も少なくありません。貧血時の眠気によって仕事の効率が低下したり集中できる時間が少なくなったりして、日常生活に支障が出てしまう可能性もあります。
なぜ貧血と同時に眠気を感じるのでしょうか。今回は医療法人社団ウェルエイジング ウィメンズヘルスクリニック東京の知久正明先生にお話をお聞きしました。
人間の体内の血液中には、赤血球・白血球・血小板の3種の血球成分が存在します。その一種である赤血球は、赤血球内部のヘモグロビンと酸素を結合させることで、肺から取り入れた酸素を体内の筋肉や細胞に運ぶトラックのような役割を果たしています。
「この赤血球の数が通常よりも少なくなるのが貧血です。理想的な赤血球の数は女性の場合は約11~13g/㎗、男性の場合は約12~15g/㎗と言われています」(知久先生)
「血中の赤血球が減少すると筋肉に十分に酸素が運ばれず、安静時でも疲労を感じたり、肩が凝ったりする症状が現れることがあります。体内の酸素が不足することで、息切れを感じるケースもあります」(知久先生)
貧血が悪化すると胸が痛くなったり、動悸がしたりすることも。また、頭に酸素が十分に行き届かないことで、立ちくらみやめまいを感じることもあるそうです。
貧血になる原因は「鉄分などの摂取不足」や「生理などによる血液の喪失」
知久先生によると、貧血が起こる原因は大きく以下の3つに分類されるそうです。
バランスの悪い食事によって、赤血球を作る鉄分やビタミンB12、葉酸を十分に摂取できないと貧血が発生しやすくなります。ダイエットによる食事制限で、鉄の摂取不足になることも多いです。
赤血球の必要量が増加することで貧血が悪化することもあります。女性の場合には、思春期、妊娠、出産期、授乳期に赤血球の需要量が増加します。
女性の場合は月経などよる出血でなるケースが多く、男性の場合は潰瘍やがんなどの病気の出血によって貧血になることが多いようです。
「重症な貧血か否かを判断するには医師による診断がベストですが、自分で判断する方法があります」(知久先生)
普段は赤い眼瞼(がんけん。まぶたのこと)の色が、血液不足によって白くなっていると貧血の可能性があります。
舌表面のザラザラがなくなり、つるりとした滑らかな印象になると慢性的な貧血の可能性があります。
重症貧血になると爪のピンク色の部分が白くなったり、爪の先が丸まった「スプーン爪」の状態になったりすることがあります。
「一言で貧血といっても、複数の種類があります。たとえば鉄分不足による鉄欠乏性貧血、栄養素不足による悪性貧血(VitB12・葉酸)、骨髄の病気による再生不良性貧血などです。女性で最も多いのは、鉄分不足による鉄欠乏性貧血です」(知久先生)
女性は月経などの慢性的な出血により、鉄分が不足して鉄欠乏性貧血になることが多いようです。特に子宮筋腫や子宮内膜症の女性は、月経過多によって出血量が増加しやすいので要注意。
「偏食やダイエットで十分に鉄分を摂取できていない人や、鉄の吸収を阻害する日本茶やコーヒーを食事中に飲む人も鉄欠乏性貧血になりやすいので気をつけましょう」(知久先生)
「鉄分の多くは眠っている間に腸管で吸収されるため、睡眠不足の場合はどうしても貧血になりやすくなります。また、貧血がもたらす脳への酸素供給量の低下や新陳代謝の悪化が睡眠障害を引き起こし、それによって日中の眠気を感じることがあります」(知久先生)
貧血による眠気を改善するには、朝起きて日光にあたることがおすすめです。日中に日光にあたると、夜間に睡眠を深くさせるメラトニンというホルモンが分泌されるためです。
「一時的に眠気を解消するだけでなく、貧血そのものを改善することも大切です。そのために重要なのは食事内容です。鉄分はもちろんですが、血球成分を構成するタンパク質や鉄分の吸収をサポートするビタミンCもバランスよく摂ることが有効です」(知久先生)
貧血を改善するには鉄分の摂取が重要ですが、同じ鉄分でも「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」という種類が存在し、体内によく吸収されるのは「ヘム鉄」の方です。ヘム鉄を多く含む食品はレバー、イワシ、カツオなどです。鉄分に加えてタンパク質やビタミンも含まれている牛乳などの食品がおすすめです。
「月経や子宮内膜症によって貧血と同時に腹痛が発症する可能性はありますが、それは月経や子宮内膜症による腹痛のことが多いようです。寒気を感じる大きな原因は末梢循環の不良によって手足が冷えることですが、貧血があるとただでさえ末梢循環が不良になることがあるかもしれません」(知久先生)
貧血が重症になると平地歩行でも動悸を感じるようになります。貧血により体内への酸素供給量が少なくなると心臓が速く動いてしまい、動悸を感じることがあります。
「貧血による動悸を感じたらゆっくり深呼吸をして、酸素をたっぷり体内に吸収して休憩すること。それでも治まらないときは病院を受診しましょう」(知久先生)
「出血性や吸収不良による消化器系疾患は貧血を併発することがあるので、消化器系疾患によって吐き気を感じる人はいるかもしれません。また、貧血改善のための鉄分サプリメントでも、吐き気を感じる人はいるようです」(知久先生)
貧血による低酸素状態、睡眠不足、自律神経の疲弊によって、だるさ=倦怠感を感じる可能性もあります。
女性は月経中に出血量が多くなるので、体内の鉄分が不足して鉄欠乏性貧血になる可能性が高くなります。女性ホルモンのバランスが乱れる月経中に眠気を感じるという人も多いでしょう。
貧血によって発生する眠気やさまざまな体調不良を予防するには、何よりも貧血を解消することが重要です。バランスの良い食事で十分に栄養を摂取して、質の良い睡眠をとるように心がけましょう。
今回の記事を参考に、普段のライフスタイルを見直してみてください。
この記事の監修
メディカルチェックスタジオ東京銀座クリニック 院長
医学博士
知久 正明(ちく・まさあき)
東京都出身、1994年日本大学医学部卒業、2000年日本大学医学部大学院修了
国立甲府病院、国立循環器病センター、日本大学医学部循環器内科、敬愛病院付属クリニック院長を経て、
2017年12月からMCS東京銀座クリニックを開業
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