聖マリアンナ医科大学 特任教授
井上 肇(いのうえ はじめ)
発症からわずかな時間で死に至ることもあるアナフィラキシーショック。
命に関わる重大な症状である上に、その原因は日常生活の中に潜んでいて、誰にも起こりうるため注意が必要です。とはいえ、アナフィラキシーショックの症状や原因を詳しく知っている方は多くないでしょう。
そこで今回は、アナフィラキシーショックのメカニズムや、症状が起きたときの応急処置方法などについて詳しくご紹介いたします。
アナフィラキシーショックは、アレルギー反応の1つでI型アレルギーに分類されています。人間の体を構成する成分以外の物質が体内に侵入すると、身体が「自分を脅かす敵」と判断することでアナフィラキシーショックが引き起こされます。
つまり、アナフィラキシーショックは身体が自ら出す危険信号なのです。
アナフィラキシーショックの主な症状は、皮膚や粘膜の赤み、腫れ、痒みに加え、呼吸器系では呼吸困難や咳、動悸、循環器系では急激な血圧低下などが挙げられます。 発症からしばらくすると意識の低下や痙攣などが起こることもあり、最悪の場合は死に至ります。
このような症状は、アナフィラキシーショックの原因となるアレルゲン(異物)が体内に侵入してからわずか数十秒~数分程度という短時間で引き起こされるのが特徴です。
アナフィラキシーショックといえば、スズメバチによる発症が有名ですが、実はこれ以外にも発症例はあります。アナフィラキシーショックを引き起こす要因になりえるものは以下の通りです。
アレルギーの中でも、食物アレルギーによるアナフィラキシーショックは大きな問題になります。とくに食物アレルギーは、バリア機能がまだ未成熟な小児に多いため、小児に発症しやすいです。
また、花粉症もアナフィラキシーショックを引き起こす可能があるというから油断できません。今や花粉症は日本の国民病といえる症状の1つ。年々患者数は増加傾向にあるといわれていますが、花粉を大量に吸い込めばアナフィラキシーショックを起こすことがあるのです。このことからも、アナフィラキシーショックは決して他人事ではなく、日常的に潜んでいる要注意な症状であることがわかります。
先述している通り、アナフィラキシーショックは体内に侵入した異物に対し、身体が敵だと判断することで引き起こされる反応です。
このメカニズムをスズメバチの例で詳しく掘り下げ行くと、スズメバチの蜂毒は私たちの身体にとっては異物です。刺されると大変な痛みと灼熱感、腫れが起こります。しかし、これはアナフィラキシーショックではありません。
身体は初めてスズメバチに刺されたときに起こったこの反応に、蜂毒は身体にとって敵だと認識します。身体の中で、「今度刺されたらこの毒(アレルゲン)が入ったことを身体に知らせる」という準備が行われるのです。これが、抗体と呼ばれるタンパク質の産生です。この抗体は、身体の至るところに分布している肥満細胞という特殊な細胞に付着して、蜂毒(アレルゲン)の侵入に備えます。
さて、不幸にして、もう一度スズメバチに刺されると蜂毒(アレルゲン)が侵入します。すると肥満細胞に結合している蜂毒に対する抗体がこのアレルゲンを認識して、肥満細胞のスイッチが入ります。
要するに肥満細胞は火災報知器です。火災報知器はスイッチが入ると消防署に自動的に連絡が行きますが、アナフィラキシーショックのときも全く同じで、肥満細胞から身体に異常を連絡するためにヒスタミンとかロイコトリエンという化学伝達物質で身体に異常を知らせます。 すると、この異物を排除するためにさまざまな反応が激烈に起こって、逆に自分の生命まで危機に追いやってしまうことがあります。これこそがアナフィラキシーショックの原理です。
アナフィラキシーショックは、1分1秒を争う重症です。全身性アナフィラキシーショックが発症すると呼吸不全(窒息)を引き起こし、死に至ることは珍しくありません。
そのため、速やかに救急車を呼び、救急医療施設に搬送することが大切です。
スズメバチやアシナガバチなどに対する抗体を持った患者さんが、もしも刺されたときにアナフィラキシーショックが起こったとき(起こりそうな時)の対処法ですが、 刺された部分よりも心臓に近いところをしっかりと圧迫し、毒(アレルゲン)が全身に回らないようにすることです。なるべくアレルゲンの巡りを遅らせることが大切です。
また、圧迫することが難しい部位の場合は、周囲をナイフなどで切って出血をさせるという方法もあります。しかしこれは、医療従事者でもない限り難しいことです。
花粉症の薬などを持っている場合は、すぐに服用させることで多少の症状の緩和が期待できます。
巷では「アナフィラキシーショックを食べ物で緩和できる」というような噂も出回っているようですが、これに関する根拠はなく、事実ではないという考えのほうが強いです。
アナフィラキシーショックは、1~2分という短時間を争う病態です。このような症状に対し、即効で効果を発揮する食べ物はないといえます。
そもそもアレルギーの場合、体内に作られた抗体を食べ物で消すことはできません。このことからも、アナフィラキシーショックを食べ物で改善させることはできないと考えるほうがいいでしょう。
これとは別に脱感作(減感作)療法と言って、わずかな量のアレルゲンを摂取させることで、身体に抵抗性を獲得させる治療法があります。
しかしこれは、アレルギーの専門医のもと長期的に治療をする必要があります。
アナフィラキシーショックが起こった場合は、ほぼ100%入院が必要です。
喉頭浮腫などを伴って呼吸困難がひどければ緊急時には気管内挿管、気管切開などを行って、呼吸管理をします。
その後、血圧低下などの症状があれば、アドレナリンなどの注射や点滴を行います。
アナフィラキシーショックの対処はとにかく一刻を争うのです。
アナフィラキシーショックが長引いてしまうと、二次的に別の臓器が障害を受けることがあります。 しかし、アナフィラキシーショックの反応そのものについては、軽快すれば通常の状態に戻すことができます。
また、アナフィラキシーショックによる合併症ですが、考えられる症状はさまざまです。
ショックが原因で急性腎不全になったり、喉頭浮腫によって呼吸不全が引き起こされ、低酸素脳症で、植物状態になる方もいます。これらを合併症と考えれば、ケースバイケースでさまざまな症状が考えられます。
他人事とはほど遠く、いつ自身に発症するかわからないアナフィラキシーショック。
発症を予防するためには、アレルゲンをできるだけ近づけない生活を心がけることが大切です。
食物アレルギーの方は誤食を避ける、スズメバチなどが多く生息する地域には近づかないなど、アレルゲンを自ら遠ざけるようにしましょう。
この記事の監修
聖マリアンナ医科大学 特任教授
日本臨床薬理学会 認定薬剤師/日本臨床薬理学会 指導薬剤師
井上 肇(いのうえ はじめ)
星薬科大学薬学部卒、同大学院薬学研究科修了。聖マリアンナ医科大学・形成外科学教室内幹細胞再生医学(アンファー寄附)講座 特任教授及び講座代表。幹細胞を用いた再生医療研究、毛髪再生研究、食育からの生活習慣病の予防医学的研究、アンチエイジング研究を展開している。
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