味覚障害とはどのような症状なのか
そもそも、味覚障害とはどのような症状なのでしょうか。
味覚障害に詳しい、Dクリニック東京の脇坂長興先生は、端的にこう説明します。
「味覚障害とは、味覚がよく分からなくなる症状です。味が全くしない、別の味に感じる。そのようなケースが、味覚障害と呼ばれるものです。」(脇坂先生)
味覚には、「甘味」「酸味」「塩味」「苦味」4つの基本味覚をはじめ、さまざまな味覚があります。
味覚はどこで感じるかというと、舌の表面や舌の付け根にある「味蕾(みらい)」という味覚の受容器です。
この味蕾が何らかの異常をきたすと、味覚障害が起こります。
味覚障害の2つの症状
(1)味覚低下(無味覚)
味覚が減退する症状です。
ほとんどの場合は、前述の「甘味」「酸味」「塩味」「苦味」4つの基本味覚とも低下しますが、何か特定の味が分からなくなるということもあります。
(2)異味覚
本来の味とは違う、異常な味を感じる症状の味覚障害です。
いつも口の中に渋い味があったりするような場合もあります。
味覚障害は舌の味蕾のトラブル!
脇坂先生によれば、味覚障害の原因にはさまざまなものがありますが、もっとも多いのは「亜鉛不足からなる味蕾の萎縮」だそうです。
「体内の亜鉛が不足すると、味を感じる舌の『味蕾』が萎縮してしまいます。味は味蕾で感じるものなので、その味を感じる組織が壊れてしまうとその結果、味を感じなくなってしまうということです。」と、脇坂先生。
亜鉛は、体の成長や維持に必要不可欠な「必須微量ミネラル」の一つ。歯や骨、肝臓、腎臓、筋肉など体内に、常に約2〜4g存在します。亜鉛は体内で作ることができないので、食べ物から摂取する必要があります。
味覚障害の改善には時間が必要
味覚障害の改善には、亜鉛の摂取が必要です。
ですが、亜鉛を摂取したからといって、すぐに味覚障害が治るというわけではありません。
「味覚を感じる舌の味蕾が壊れてしまっていると、いくら亜鉛を摂取しても、味蕾が回復するまでは、味覚障害も改善しません。」と、脇坂先生は言います。
味蕾がもう一度作られるまでには、時間差があるのです。
血液中の亜鉛の量を測定すると、亜鉛のサプリメントや薬を投与すると、亜鉛の少ない人でも、通常は2〜2週間で亜鉛の量は正常値に戻ります。
しかし、味蕾の回復には通常で6週間〜8週間ほどかかり、回復の遅い人になると半年ほどかかる人もいるそうです。
味覚障害の改善には、亜鉛が豊富な食べ物を!
もし味覚障害の症状が疑われるようなら、まずは亜鉛を豊富に含む食物を摂取するのが、症状改善の近道だといえます。
では、亜鉛を豊富に含んでいる食べ物には、どんなものがあるのでしょうか。脇坂先生はこう解説します。
「亜鉛を多く含む食材は、牡蠣やうなぎ、牛肉、チーズが代表格ですね。また、レバーや卵、アーモンド、カシューナッツと、いろいろな食材にも亜鉛が含まれています。」(脇坂先生)
亜鉛の摂取には食べ合わせも注意!
亜鉛を摂取するには、多少のコツがあります。それは「食べ合わせ」です。
亜鉛はクエン酸やビタミンC、動物性タンパク質と一緒に摂取すると、摂取効率が上昇するといわれています。
逆に、食物繊維やフィチン酸、ポリリン酸(加工食品に多く含まれている)を一緒に摂取すると、亜鉛の吸収を妨げる可能性があります。
なお、お酒が好きな人は、アルコールが亜鉛の排出量を増やしてしまうので注意しましょう。
亜鉛の摂取にはサプリメントも有効
脇坂先生によれば「亜鉛は、吸収が悪かったり、他の食物との食べ合わせの相性があったりするので、日常生活の中で十分な量を摂取するのは、若干難しい栄養素です。」と、言います。
その対策として「食べ物で補うのが一番良いのですが、現実的には亜鉛を摂取するには、食事に加えてサプリメントで補うのも非常に有効な手段となります。」と、補足します。
亜鉛の摂り過ぎは体に良くない?
味覚障害の改善に必要な亜鉛の摂取ですが、逆に亜鉛の摂取過多が心配になります。
公益財団法人 長寿科学振興財団のウェブサイト「健康長寿ネット」には、こう記載されています。
「亜鉛の過剰摂取は健康に悪い影響があります。亜鉛サプリメントの不適切な利用や、日常的に高濃度の亜鉛を摂取することは、良性の前立腺肥大リスクを増加させる可能性があります。また、1日あたり100㎎の亜鉛サプリメントの毎日の摂取、または10年間以上の摂取は、前立腺がんリスクを増加させる可能性があるとの報告もあります。また、亜鉛の過剰摂取により、銅の吸収阻害による銅欠乏、吐き気、嘔吐腎障害、免疫障害、上腹部痛、消化管過敏症、HDLコレステロールの低下、低銅血症、下痢などのおそれがあります。」との注意喚起があります。
しかし、その点について、脇坂先生は「それほど心配する必要はありません。」と、言います。
「通常、街で販売されているサプリメントにも、亜鉛がたくさん入っていたりします。食べものにサプリメントを足したとしても、摂取過多になることはあまりありません。それほど心配する必要はありません。」(脇坂先生)
ただし、「医療機関で、亜鉛をサプリメントや医薬品の補助役として処方されている場合は、定期的に血液検査をするなどして、体に異常が出ていないことを確認する必要があります。」と、この点に関しては注意が必要です。
出典:公益財団法人 長寿科学振興財団のウェブサイト「健康長寿ネット」
味覚障害は、亜鉛不足以外が原因のことも!
味覚障害の原因で真っ先に疑うべきは亜鉛不足ですが、「それ以外の原因もあります。」と、脇坂先生は説明します。
「肝臓の障害や感染症が原因で、味覚が分からなくなる場合もあります。また、最近多いのは、過激なダイエットで栄養不足になることで味覚障害を起こすような人も増えています。」(脇坂先生)
味覚障害の症状は、以下の病気のシグナルかもしれません。
気になったときは、医師の診察を受けてみることをおすすめします。
・糖尿病
・慢性腎不全
・舌炎
・ドライマウス
・シェーグレン症候群
・風邪
・鼻の病気全般
・頭部や脳のがん
・頭部の外傷
・脳神経障害
・顔面神経麻痺
・慢性中耳炎
・薬物の副作用
味覚障害はどこの診療科で診察を受けるべき?
もし味覚障害の症状が出ている場合、医師の診察を受けることが最善です。
その時、何科に行って診察を受ければいいのでしょうか。
脇坂先生によれば、「味覚障害の診察は、何科が専門と決まっているわけではありません。しかし、強いて言えば、内科、耳鼻科、口腔外科、歯科の先生なら、比較的、専門に近いといえると思います。」と、言います。
その上で「まずは、どの科でもいいので、身近なお医者様に相談をしてみることです。そこで、味覚障害の原因となる可能性をいくつか挙げてもらい、診療科を振り分けてもらいましょう。」と、アドバイスします。
まとめ
味覚障害は、命に関わる障害ではありません。
「おいしいものを食べたい」という食欲に味覚は欠かせず、味覚障害は日常生活の質(QOL)を大きく左右するものです。
味覚障害が亜鉛不足によるものなら、亜鉛を豊富に摂取しましょう。しかし、亜鉛不足以外が原因の場合もあります。
味覚障害の対策で迷ったら、病院で診察を受けることをお勧めします。