薬物依存症とは何か
アルコールやタバコ、シンナー、睡眠薬、大麻、麻薬、覚せい剤…。世の中には、たくさんの依存性が高い薬物があふれています。薬物は、いちど依存症になったらなかなか抜け出せないと言われています。薬物依存症とは、実際どのようなものなのでしょうか。薬物依存症の種類や依存症の診断方法、薬物依存症の治療方法などを解説します。
薬物依存症とは、文字通り、心身を薬物に依存してしまうことです。
薬物は、脳に直接作用して快楽や高揚感などをもたらします。その気持ちよさを目的として薬物を使っているうち、依存症となり、薬物の使用を自分の意思でコントロールすることができなくなってしまいます。
薬物依存症は大きな社会問題
厚生労働省の生活習慣病予防のための健康情報サイト「e-ヘルスネット」によれば、薬物乱用は世界的にも大きな問題で、薬物依存症によって深刻な社会的問題や健康問題が起こっています。
日本国内では「受刑者の4人に1人は覚せい剤事犯で、規制薬物使用歴のある人は全国民の2.5%、薬物乱用による医療費コストは年間2,000億円以上と推定されています」(e-ヘルスネットからの引用)。
参考:厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト「e-ヘルスネット」
薬物依存症には「身体依存症」と「精神依存症」の2つがある
薬物依存症は、「精神依存症」と「身体依存症」の2つの種類に大きく分けられます。
薬物依存症の種類(1)精神依存症
薬物依存症の精神依存症とは、薬物の使用を自己制御できない精神的な状態に陥り、必要がないのに強迫的に薬物を使用することです。
例えば、タバコを吸う人の中でもニコチンへの依存症性が高い場合、タバコを切らすと「ニコチン切れ」でついイライラするようになります。
精神的な依存症から抜け出すことは大変ではありますが、薬物を使用しない環境を作り、距離を置くなどすれば、薬物を断ち切る事は可能です。
薬物依存症の種類(2)身体依存症
薬物依存症の「身体依存症」とは、その薬物が体に良くないことは理解しているけれど、理性で薬物使用の欲求を制止したり、抑えたりすることができない状態のことをいいます。体がその物質を欲している状態で、それを断ち切ることは非常に難しいとされています。
本来、人間の体は薬物を摂取した状態で、呼吸や脈拍などが乱れるものです。しかし身体依存症の状態に陥ると、薬物を摂取している状態が「普通の状態」だと身体が認識します。そのため、薬物が切れると「離脱症状」と呼ばれる症状が現れます。
アルコール依存症の場合、アルコールが切れると、動悸や手の震え、精神的不安定などの症状が現れるようになります。その症状を治めるためにアルコールを摂取し、悪循環がどんどん続いていきます。
薬物依存症を起こす代表的な薬物
薬物依存症を起こす薬物は、非常に多岐にわたります。身体依存症を起こす代表的な薬物と、精神依存症を起こす代表的な薬物に分けて説明します。
身体依存症を起こす代表的な薬物
Dクリニック東京の小林一広先生によれば、身体依存症を起こす薬物の代表的なものは、麻薬、バルビツール酸系睡眠薬、アルコールの3つがあります。
身体依存症を起こす代表的な薬物(1)麻薬
鎮痛作用や麻酔に使われる薬品で、習慣作用のあるものを「麻薬」と呼んでいます。ヘロインやモルヒネなどの麻薬が代表的な例です。法律により、厳しく取り締まりが行われています。
身体依存症を起こす代表的な薬物(2)バルビツール酸系睡眠薬
てんかんなどのけいれん発作治療、不安緊張状態の鎮静、睡眠障害の治療などに用いられる睡眠薬です。「ペントバルビタール」や「アモバルビタール」などの薬剤が知られています。
一般の外来等で処方されることはほとんどありません。
身体依存症を起こす代表的な薬物(3)アルコール
飲用できる「エチル・アルコール」が含まれるビールやワイン、ウイスキー、日本酒などのアルコール飲料は、すべてアルコール依存症という薬物依存症を引き起こす可能性があります。
上記の「麻薬」「バルビツール酸系睡眠薬」は、巷に出回ることはまずありません。それに対してアルコールは、日本の場合は成人であれば誰でも買いに行くことができます。アルコールは適量にとどめるべきで、使い方を誤れば、薬物依存症を引き起こす非常に怖いものという認識が必要です。また、タバコのニコチンなども精神依存症につながる薬物という認識を持つべきでしょう。
精神依存症を起こす代表的な薬物
Dクリニック東京の小林一広先生によれば、精神依存症を起こす薬物の代表的なものは、マリファナや覚せい剤、シンナーなどがあります。
精神依存症を起こす代表的な薬物(1)マリファナ(大麻)
大麻草の花や茎、種子、葉などを乾燥して切り刻んだものです。緊張緩和や精神集中の作用があります。乱用すると、記憶や学習能力、知覚の変化、無気力などの症状が現れます。
精神依存症を起こす代表的な薬物(2)覚せい剤
一度使うと強い精神依存症が形成される、非常に危険な薬物です。強烈な覚醒効果と快感をもたらしますが、「元気の前借り」とも言われるほど、その後の反動が強く、乱用すると被害妄想や幻聴、幻覚などの精神病性障害を引き起こします。
精神依存症を起こす代表的な薬物(3)コカイン
南米原産のコカの葉から作られます。覚せい剤などと同じく、中枢神経興奮作用をもつ薬物です。強力な中毒性を持つことで知られています。
精神依存症を起こす代表的な薬物(4)有機溶剤(シンナー等)
シンナー等の有機溶剤は、中枢神経系に対する抑制作用があり、いわゆる「ラリった」状態になり、多幸感や高揚感をもたらします。依存症に陥ると、幻覚や耳鳴り、脳波の乱れなどさまざまな症状が現れます。
どのくらいの薬物依存が依存症として診断される?
明らかに違法薬物である、麻薬や覚せい剤を使用しているならともかく、日常生活の中で普通に購入できるアルコールやシンナーなどは、嗜好や乱用、依存症の線引きが非常にあいまいです。どのぐらいの依存症度になったら、依存症と認定されるのでしょうか。
Dクリニック東京の小林一広先生によれば、依存症の使用量による境界はありません。その薬物が原因となって日常生活でトラブルが起きたり、問題を引き起こしたりするケースが存在する時点で、依存症と診断される場合が多いと言えます。
本人の心身のコンディションはもちろん、本人を取り巻く家族や友人関係、仕事関係などさまざまな生活環境の中で、薬物を原因にした何らかのトラブルが起き、生活に支障が出てしまっている。分かっていながら起こしてしまうというのは、明らかに依存症なのです。
薬物依存症のメカニズム
薬物による依存症は、どのようなメカニズムで起こるのでしょうか。
身体の傾向がある薬物には、体に耐性がついてしまうことが知られています。使用が慢性化すると、今まで使っていた量では効かなくなり、次第に使用する量が「もっと!もっと!」という具合に増えていってしまいます。
依存症の恐ろしさは、段階的にエスカレートしていくことです。特にイリーガル(違法)なものでは「ステッピング・ストーン・セオリー(飛び石理論)」と呼ばれます。最初は軽い薬物を入り口にし、そのうち、さらに依存症性の強い薬物に手を出すことです。
シンナーから入り、マリファナやコカインに移行し、最後は覚せい剤で“あがり”というように、飛び石で薬物のレベルが上がっていってしまうケースが多々あります。
このように薬物依存症は、その人を取り巻く環境によって大きく変わります。
薬物依存症の治療法
薬物依存症の治療は、当事者1人の努力だけでは薬物の誘惑に負けてしまい、依存症の克服は非常に困難です。1人で悩まずに専門医や自助グループに相談することです。当事者は周りを頼り、当事者を取り囲む周りの人たちがしっかりサポートする。それが何よりも大切なことです。
薬物依存症の治療法(1)自助グループ等に参加する
薬物依存症の人たちが集まる自助グループ等への参加が、依存症治療の第一歩といえます。
自助グループでは、薬物が原因でさまざまなトラブルを抱えた当事者たちが集まり、助け合って薬物依存症に立ち向かっています。有名なところでは「ダルク」や「断酒会」などがあります。1人ではなく、「仲間と一緒に頑張ろう」という気になることが大切です。
薬物依存症の治療法(2)適切な治療を受ける
医師による適切な治療を受けることも薬物依存症の克服に大切です。
治療は基本的に外来で行われます。一般的には心理療法や薬物療法、作業療法などを症状に応じて組み合わせます。依存症の克服と、再び薬物に依存症しないようにする治療が大切です。
親しい人が薬物依存症になってしまった場合はどうすればいいのか
大麻や麻薬、覚せい剤などの違法な薬物については、使用はもちろん所持をしているだけで犯罪になります。その場合は、キチンと法律的な裁きを受ける必要があります。
ただし、肝心なのはその後です。人間は「ときには間違いを犯すもの」です。正当に裁きを受け、それからいかに更生して立ち直るかが非常に大切なことです。
一度薬物で失敗してしまっても「一生ダメな人」と周りが思ってしまい、突き放すのは良くありません。そのためにも、さまざまな人の協力やサポートが必要なのです。
まとめ
いかがでしたか?
薬物依存症は人生を壊しかねない恐ろしいものです。そして、依存症から1人で脱出するのは非常に困難なことです。
何よりも、薬物に依存症しない。そして万が一にも薬物依存症になってしまったら、周囲のサポートを受けて適切な治療を行いましょう。