アビガンとはどんな薬なのか
まず、アビガンという薬について説明をしましょう。
アビガンは、新型または再興型インフルエンザに対する治療薬(抗インフルエンザウイルス薬)として開発・承認されました。一般名はファビピラビルといいます。開発は、富士フイルム富山化学が行いました。
タミフルなど、他のインフルエンザ治療薬で効果が認められなかった場合にのみ使用されるという、少々特殊な薬です。
なぜアビガンが新型コロナウイルス感染症の治療薬として期待されるか
なぜアビガンが、新型コロナウイルス感染症の治療薬として期待されるのか。
その理由は、新型インフルエンザウイルスと、新型コロナウイルス感染症は、どちらも「RNA型ウイルス」です。ですから、アビガンが新型インフルエンザに効くのならきっと新型コロナウイルス感染症にも効くのではないか。そういった理由で、アビガンによる新型コロナウイルス感染症の治療が始まったといういきさつがあります。
アビガンの治療メカニズム
ウイルスは、遺伝子とタンパク質の殻という単純な構造で出来ている粒子です。
ウイルスと同じように病気を引き起こす細菌や真菌は、自分で細胞分裂をして増殖することができます。しかしウイルスは、単独では増殖することができません。そのためウイルスは、ヒトや動物などの「宿主」の細胞に侵入し、その機能を利用することで増殖していきます。
そして、増殖していく過程で、体に悪い影響を及ぼします。それが発熱だったり、重篤な場合は呼吸不全に陥って、命を落とす場合もあります。
アビガンは、そのウイルスが増殖する過程を抑制する作用があり、それによってウイルス感染症の治療を行うのです。
なぜアビガンは新型コロナウイルス感染症の治療薬として承認されていないのか
新型コロナウイルス感染症の治療薬として大きな注目を浴びたアビガン。しかし現在もなお、新薬として承認には至っていません。
アビガンは新型インフルの治療薬としては承認されている。でも…
アビガン自体は、新型または再興型インフルエンザウイルスの治療薬としては、2014年3月に国内で製造販売承認を取得しています。
アビガンは、PMDA(医薬品医療機器総合機構)で安全性などを審査されています。そこで安全性や治療の有効性、そしてどのような副作用が出るのかなど、おおよそのことは類推されています。いわば「お墨付き」をもらっているということです。
しかし残念ながら、そのお墨付きは「新型または再興型インフルエンザに対する治療」に限ったものです。新型コロナウイルス感染症に対しては「効くかどうかは未知数」ということになります。思わぬ副作用が出る可能性もゼロではないため、そのリスクを考えると、簡単に「使ってもいい」とは言えないのです。
臨床の症例が不足している
アビガンは、PMDAですでに審査がなされている薬です。
そのため、新型コロナウイルス感染症についての大規模な臨床研究を実施し、治療の効果が認められれば承認される予定でした。
しかし残念ながら、日本では臨床研究をして有効性を判断できるほど、新型コロナウイルス感染症の患者数が多くありませんでした。これはある意味幸いなことでもありますが、いわゆるデータ不足が、承認に結びつかない大きな理由となりました。
副作用リスクがある
アビガンを使うことに対して慎重にならざるを得ない大きな原因が、副作用リスクの存在です。アビガンには、妊娠・胎児に影響を及ぶす副作用が懸念されています。
これからお母さんになる、あるいはなりたいという女性の方はもちろん、男性にも影響を及ぼすことが分かっています。そのためアビガンは、使い方を誤ると赤ちゃんに影響を及ぼす可能性があります。インフルエンザ治療においても、他のインフルエンザ治療薬で効果が認められなかった場合にのみ使用が認められるという制限がついています。
なお、アビガンの新型コロナウイルス感染症患者を対象とした臨床試験は、現在も継続されています。
参照:富士フイルムグループニュースリリース 抗インフルエンザウイルス薬「アビガン®錠」 新型コロナウイルス感染症患者を対象とした新たな臨床第III相試験を国内で開始
新型コロナウイルス感染症の治療薬はあるの?
アビガンは、現在も承認を目指して臨床試験中です。それに対し、2021年7月の段階で、日本国内で承認されている新型コロナウイルス感染症の治療薬は3種類存在します。
新型コロナウイルス感染症治療薬(1)レムデシビル
エボラ出血熱の治療薬として開発された抗ウイルス薬です。すでに人工呼吸や高流量の酸素投与に至った重症例では、効果が期待できない可能性が高いものの、そこまでに至らない酸素需要のある症例では有効性が見込まれています。
新型コロナウイルス感染症治療薬(2)デキサメタゾン
炎症の鎮静、免疫系を抑える作用があるステロイドです。新型ウイルス感染症が重症化し、呼吸補助が必要になった患者に投与したところ、死亡リスクの低下が認められました。
新型コロナウイルス感染症治療薬(3)バリシチニブ
関節リウマチの治療薬として開発されました。重症患者に対してレムデシビルとの併用で使用すると効果が認められています。
また、上記の3つの薬の他に、アビガンと同様、国内承認を目指している薬も複数存在します。
参考リンク:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」第5.1版
新型コロナウイルス感染症の治療薬とワクチンの違い
新型コロナウイルス感染症については、さまざまなワクチンが登場し、接種が進んでいます。しかし、治療薬とワクチンは違う役割を持つものです。
治療薬は、病気を薬で治療して撃退することを目的とするものです。
それに対してワクチンは、人が持っている「免疫力」を強め、病気にかかりにくくするものです。
つまり、薬は主に感染してからの「治療」、ワクチンは感染そのものを防ぐためのもので、それぞれの役割があると言えます。
世界の治療薬開発競争における日本の状況は?
世界の治療薬開発競争における日本の状況は、残念ながら、非常にお寒い状況だと言わざるを得ません。
それにはさまざまな理由が存在しますが、企業的の財務体力、開発環境、国の姿勢などの面において、日本はアメリカやヨーロッパに比べてかなり違うのが実情です。そのため自由な発想での創薬が制限されているのが偽らざる事実です。
しかし、その中でアビガンは臨床試験が進んでおり、新型コロナウイルス感染症の治療薬として承認される日も近いと思われます。
また将来的には、さらにアビガンから派生した新たな新薬が開発される可能性も大いにあることです。
まとめ
いかがでしたか?
アビガンは、2021年7月時点で臨床試験が続けられており、今後、新型コロナウイルス感染症の治療薬として認可されることが期待されています。
その一方、アビガンに先んじて新型コロナウイルス感染症の治療薬はすでに登場しています。ワクチンと治療薬を併用し、新型コロナウイルス感染症から人類を守ってくれることを祈ってやみません。